旧運用の停止計画(レガシー廃止チェックリスト)のテンプレート
新しいシステムが動き出すと、プログラムは成功したような気分になります。ところが、投資の効果が本当に出るのは古いやり方をやめたときです。
旧システムを止めていなければ、保守費は払い続けています。紙の台帳が残っていれば、現場は二重に記録しています。「新しいものを入れた」だけでは、コストは増えただけです。
この記事では、旧運用を確実にやめるためのチェックリストを紹介します。地味ですが、投資の回収に直結する作業です。
■ 背景・よくある課題
よくある状態 | なぜ起きるか | その結果 |
|---|---|---|
旧システムが何年も動いたまま | 止める判断をする人が決まっていない | 保守費を払い続ける。年数千万円になることも |
「念のため」で読み取り専用のまま残す | 誰かが見るかもしれないと思っている | サーバもライセンスも生きているので、費用は同じ |
紙の台帳が現場に残っている | 新しいやり方への不安から | 二重記録が続き、作業時間が減らない |
契約の解約を忘れる | システムを止めたことで終わったと思っている | 自動更新で1年分の費用が発生する |
データを消してしまい、あとで困る | 法定保存の確認をしていない | 税務調査・監査で出せない |
PJ完了後に誰もやらない | PJの範囲に入っていない | 担当者がいないまま数年が過ぎる |
共通しているのは、「止める」がプロジェクトの仕事になっていないことです。PJは新しいものを作って完了します。古いものを片づけるのは、誰の仕事でもないまま放置されます。だからプログラムが持ちます。
■ 停止は6つの段階でできている
医療機器の保守を手がけるセイワ医科器械(年商142億円・取引先1,900施設・保守対象34,000台)が、保守サービス管理システムを刷新したときの停止計画です。旧システムは1998年から動いていました。

ポイントは、②で止まってしまいがちだということです。新しいシステムを使い始め、旧システムを読み取り専用にした時点で、現場は「移行が終わった」と感じます。しかしサーバは動いていて、保守契約も生きています。年4,820万円は、④が終わるまで払い続けます。
また、⑤(データの保存)は③より前か同時でなければいけません。サーバを落としてからデータを出そうとしても、もう取り出せません。順番を間違えると、取り返しがつかない段階があります。
■ チェックリストの全体像
旧運用の停止チェックリストは、止める対象を行にした11項目の表です。
# | 項目 | 書くこと |
|---|---|---|
1 | 停止の対象 | システム/帳票/業務手順/契約など、1行に1つ |
2 | 種類 | システム/データ/契約/物理資産/業務手順 |
3 | 置き換え先 | 新しくどこで扱うか。「廃止」なら置き換えなし |
4 | いまの利用者 | 誰が使っているか。人数と部署 |
5 | 年間の維持費 | 止めたときに浮く金額 |
6 | 停止の条件 | これを満たしたら止めてよい、という条件 |
7 | 停止予定日 | いつ止めるか。未定にしない |
8 | データの扱い | 移行/別形式で保存/廃棄。保存年限も |
9 | 契約の解約期限 | いつまでに通知すれば自動更新を避けられるか |
10 | 担当者 | 個人名。運用部門の人であることが多い |
11 | 完了日・確認者 | 実際に止まった日と、確認した人 |
9の契約の解約期限が、見落とされやすい項目です。多くの保守契約は「3か月前までに通知がなければ自動更新」となっています。システムを12月に止めても、通知を9月までにしていなければ、翌年度の1年分を払うことになります。
■ 記入例:セイワ医科器械
対象 | 種類 | 置き換え先 | 年間費用 | 停止の条件 | 停止日 | 担当 |
|---|---|---|---|---|---|---|
保守管理システム(1998年稼働) | システム | 新システム(C1) | 2,900万円 | 新システムで3か月分の月次処理が問題なく完了 | 2025/12/26 | 情報システム部 大西 |
部品管理(Access) | システム | 新システム(C2) | — | C2稼働後、在庫差異が2か月連続で0.5%以内 | 2026/04/30 | 部品管理課 橋本 |
サービス員の日報(Excel) | 業務手順 | 新システムのモバイル入力 | — | サービス員182名の入力率が95%を超える | 2025/10/31 | サービス部 井坂 |
紙の点検台帳(3種) | 業務手順 | 新システム+PDF出力 | — | 監査部門が電子記録で問題ないと確認 | 2025/11/28 | 品質保証部 三宅 |
旧システムの保守委託契約 | 契約 | — | 2,900万円 | システムの完全停止が完了 | 2026/01/31 | 調達部 谷 |
ハードウェア保守(サーバ4台) | 契約 | — | 1,100万円 | 同上 | 2026/01/31 | 調達部 谷 |
旧システムのライセンス | 契約 | — | 520万円 | 同上 | 2026/01/31 | 調達部 谷 |
拠点間の専用回線 | 契約 | 新システムはクラウド | 300万円 | 全14拠点が新システムに移行 | 2026/01/31 | 情報システム部 大西 |
保守履歴データ(1998〜2025) | データ | — | — | 法定保存年限の確認完了 | 2025/12/26までにCSVで書き出し、10年保管 | 情報システム部 大西 |
旧サーバ4台・端末28台 | 物理資産 | — | — | データ消去の証明書を受領 | 2026/03/31 | 総務部 平野 |
この表から見えてくることが3つあります。
解約通知の期限が、停止日よりずっと前にある:保守委託は2025年10月31日、ライセンスは12月31日が通知の期限です。この日付を表に書いていなければ、まず忘れます。
費用が浮くのは契約4件だけ:年4,820万円の内訳は、保守委託2,900万円・ハード保守1,100万円・ライセンス520万円・回線300万円です。システムを止めただけでは1円も減りません。
担当が運用部門と調達部門に分かれている:システムを止めるのは情報システム部ですが、契約を解約するのは調達部です。ここが連携していないと、片方だけが終わります。
停止の条件は「新しいほうが回っている」ことで書く
停止の条件を「〇月〇日になったら」と日付だけで決めるのは危険です。新しいほうが不安定なまま止めてしまうことがあります。
セイワ医科器械では、すべての行に新しいほうの状態を条件として書いています。「3か月分の月次処理が問題なく完了」「入力率95%超」「在庫差異が0.5%以内」。この形なら、止めてよいかどうかを数字で判断できます。
■ 運用ルール
タイミング | やること | 誰が |
|---|---|---|
PJの計画段階 | 止める対象を洗い出す。新システムの計画と同時に作る | PM・運用部門 |
稼働の6か月前 | 契約の解約期限をすべて調べ、表に記入する | 調達部門 |
稼働の3か月前 | データの法定保存年限を確認する | 法務・経理・監査部門 |
稼働後、毎月 | 停止の条件が満たされたかを確認する | PMO |
解約通知の期限の1か月前 | 通知を出すかどうかを判断する | PgM・調達部門 |
停止日を延ばすとき | 運営委員会の承認を得る。延びた分の費用も報告する | PgM |
全件完了後 | 浮いた費用を実績として報告する | PgM・財務部門 |
一番大事なのは、止める対象を新システムの計画と同時に洗い出すことです。あとからやろうとすると、「そういえばあのExcelも」「あの契約も」と抜けが出ます。新しいものを設計するときに、「これは何を置き換えるのか」を必ず書く。そうすれば漏れません。
■ 活用シーン
投資効果の説明:浮いた維持費は、ベネフィットとして報告できる数少ない確実な金額です。
次年度の予算づくり:いつ何の契約が終わるかがわかるので、予算を組みやすくなります。
監査・税務への対応:データの保存年限と保管場所が一覧になっています。
プログラム終結の判定:この表が全件完了していることが、終結の条件の1つになります。
■ よくある失敗と直し方
失敗 | 何が起きるか | 直し方 |
|---|---|---|
「念のため」で読み取り専用のまま残す | 費用は止まらない | 参照停止と完全停止を別の段階として管理する。残す期限を決める |
契約の解約期限を調べていない | 自動更新で1年分を払う | 稼働の6か月前に全契約の通知期限を調べ、表に書く |
データを消してから保存年限を知る | 監査・税務で出せない | 完全停止の前に、法務・経理・監査で保存年限を確認する |
停止日を日付だけで決める | 新しいほうが不安定なまま止めてしまう | 停止の条件を、新システム側の数字で書く |
担当が情報システム部だけ | 契約が解約されない | 契約は調達部門、物理資産は総務部門と、種類ごとに担当を分ける |
PJ完了と同時に管理をやめる | 誰もやらないまま数年が過ぎる | 停止の管理はプログラムが持つ。終結の条件に入れる |
■ 導入効果
項目 | 前回のシステム更新(2016年) | 今回 |
|---|---|---|
旧システムの完全停止までの期間 | 稼働から3年2か月 | 稼働から5か月(予定) |
停止までに払った旧システム維持費 | 約1億4,000万円 | 約2,000万円(見込み) |
自動更新で発生した不要な契約費用 | 1件・480万円 | 0件(予定) |
紙の台帳が残った期間 | いまも一部が残っている | 稼働から5か月で全廃(予定) |
停止対象の洗い出し件数 | 4件(システムのみ) | 10件(契約・データ・資産を含む) |
2016年の更新では、旧システムが3年以上動き続けました。悪意があったわけではありません。止める担当が決まっていなかっただけです。それだけで1億円以上の差が出ます。
■ まとめ
旧運用の停止は6段階あります。④の契約解約まで終えないと、費用は止まりません。
⑤のデータ保存は、③の完全停止より前か同時に行います。順番を間違えると取り返しがつきません。
契約の解約通知の期限を必ず表に書きます。停止日よりずっと前にあります。
停止の条件は、新しいほう側の数字で書きます。日付だけでは判断できません。
担当は種類ごとに分けます。システムは情報システム部、契約は調達部、資産は総務部です。
止める対象は、新しいものを設計するときに同時に洗い出します。あとからでは漏れます。
次回は、プログラムが作ったしくみを運用部門へ引き渡すための「運用引き継ぎ・定着確認シート」のテンプレートを紹介します。