チェンジマネジメント計画・組織変革アセスメントのテンプレート
プログラムがねらう効果は、たいてい「人のやり方が変わること」を前提にしています。新しいシステムを入れても、職員が今までどおりのやり方を続けていれば、効果はゼロです。
その「人が変わる」ところを計画するのが、チェンジマネジメント計画です。そして計画を作る前に必要なのが、いま組織がどのくらい受け入れているかを測る組織変革アセスメントです。
この記事では、測り方と、測った結果にもとづく打ち手の決め方を紹介します。
■ 背景・よくある課題
よくある状態 | なぜ起きるか | その結果 |
|---|---|---|
研修をすれば定着すると思っている | 知識の問題だと考えている | 反対している人には研修が効かない |
全員に同じ説明をする | 相手がどの段階にいるかを知らない | 知らない人にも、すでに使っている人にも合わない |
反対意見を「抵抗勢力」と呼ぶ | 反対の中身を聞いていない | 正当な業務上の懸念を見逃す |
受け入れ度合いを測っていない | 測り方を知らない | 打ち手が効いたかどうかわからない |
稼働日で活動を終える | プロジェクトの計画に乗っている | 定着する前に支援が終わる |
とくに多いのが1つめです。「使ってもらえないのは、使い方を知らないからだ」と考えて研修を増やす。ところが使わない理由は、たいてい別のところにあります。
■ 受け入れの5段階
人が新しいやり方を受け入れるまでには、5つの段階があります。人口18万2,000人のみどり市役所(職員1,240名)が進める自治体DX推進プログラムで、2025年9月に測った結果です。

この図でいちばん大事なのは、段階ごとに効く打ち手が違うという点です。
「知らない(1)」の148名に必要なのは、研修ではなく情報です。
「反対(2)」の96名に研修をしても、出席しません。必要なのは何が心配なのかを聞くことです。
「様子見(3)」の372名には、説明よりも先に始めた人の実例が効きます。
「やってみる(4)」の418名にこそ、研修と手順書と支援窓口が効きます。
「定着(5)」の206名には、改善を言える場を用意します。この人たちが次の推進役になります。
研修は、5段階のうち1つにしか効きません。それなのに、チェンジマネジメントといえば研修、になりがちです。まず測る。段階に合った手を打つ。順番はこれです。
■ 測り方
アセスメントは、10問程度の簡単なアンケートで測れます。みどり市役所では四半期に1回、全職員に実施しています(所要3分、回答率78%)。
設問 | 段階の判定に使う |
|---|---|
電子申請・窓口予約の取り組みを知っていますか | 「知らない」→ 段階1 |
この取り組みに賛成ですか(5段階) | 1〜2点 → 段階2 |
自分の業務で使う予定はありますか | 「予定なし」かつ賛成 → 段階3 |
実際に使ったことがありますか | 「ある」→ 段階4以上 |
使うとき、手順書を見ずにできますか | 「できる」→ 段階5 |
改善したい点はありますか(自由記述) | 段階5の判定の補助。反対理由の把握にも使う |
自由記述の欄が、実はいちばん役に立ちます。みどり市役所の2025年6月の調査では、反対の理由として次のような回答が集まりました。
反対の理由 | 件数 | 対応 |
|---|---|---|
高齢の市民が使えず、かえって窓口が混む | 38件 | 紙の申請を残すことを明記し、広報した |
入力の手間が職員側に移るだけ | 24件 | 実際の作業時間を測り、1件あたり4分減ることを示した |
システムが止まったときに業務が止まる | 17件 | 障害時の紙運用の手順を作り、研修に含めた |
研修の時間がとれない | 12件 | 15分×4回の分割研修に変更した |
その他 | 9件 | — |
並べてみると、ほとんどが正当な業務上の懸念だとわかります。「抵抗勢力」という言葉で片づけていたら、この4つの改善は生まれませんでした。反対は、計画の欠けている部分を教えてくれる情報です。
■ テンプレートの全体像
チェンジマネジメント計画は、対象グループごとに次の10項目を書きます。
# | 項目 | 書くこと |
|---|---|---|
1 | 対象グループ | 部署・役職・業務の種類でまとめる |
2 | 人数 | 何名いるか |
3 | 現在の段階 | アセスメントの結果。1〜5の内訳 |
4 | 目標の段階と期限 | いつまでにどこまで上げるか |
5 | この変化で失うもの | その人たちにとっての不利益。ここを書けるかが勝負 |
6 | この変化で得るもの | その人たち自身にとっての利益。組織の利益ではない |
7 | 打ち手 | 段階に合った活動 |
8 | 実施時期 | いつやるか |
9 | 誰が伝えるか | PgMではなく、その人たちが信頼している人 |
10 | 測り方 | 効果をどう確認するか |
5の「この変化で失うもの」は、書きにくい項目です。しかしここを書けないと、反対の理由がわかりません。窓口担当の職員にとって、電子申請が増えるということは、長年つちかった窓口対応の技能の出番が減るということでもあります。それを認めたうえで、新しい役割を用意する。これがチェンジマネジメントの中身です。
■ 記入例:みどり市役所
対象 | 人数 | 現在 | 目標(2026/3) | 失うもの | 打ち手 | 誰が伝えるか |
|---|---|---|---|---|---|---|
窓口担当職員 | 186名 | 段階2が48名/3が72名 | 段階4以上を80% | 窓口対応の技能の出番。対面での感謝の言葉 | 15分×4回の分割研修/相談業務への役割の移行を明示 | 各課の係長(先行3課の経験者) |
課長級 | 68名 | 段階3が41名 | 段階5を100% | 紙の決裁で保っていた確認のタイミング | 先行3課の課長による実績報告/電子決裁の研修 | 副市長 |
内部事務担当 | 240名 | 段階1が62名 | 段階4以上を70% | —(業務が楽になる側) | 全庁メール/庁内ポータルでの手順公開 | 情報政策課 |
市民(間接) | — | 電子申請率30% | 電子申請率45% | — | 広報誌・窓口でのチラシ/紙の申請も残すと明記 | 広報課 |
「誰が伝えるか」の列を見てください。PgMの名前はどこにもありません。課長級に伝えるのは副市長、窓口職員に伝えるのは同じ立場の係長です。誰が言うかで、伝わり方はまったく変わります。PgMがやるのは、適切な人に伝えてもらう段取りです。
■ 運用ルール
タイミング | やること | 誰が |
|---|---|---|
プログラム開始時 | 1回目のアセスメントを実施し、出発点を記録する | PgM・PMO |
四半期 | アセスメントを実施。段階の内訳の変化を見る | PMO |
アセスメント後2週間以内 | 自由記述を読み、反対の理由を分類して対応を決める | PgM・業務部門 |
各PJの稼働3か月前 | 対象グループごとの打ち手を実施する | 各PM・業務部門 |
稼働後6か月まで | 支援を続ける。段階4→5への移行を確認する | 業務部門 |
プログラム完了時 | 段階5の職員を、次の取り組みの推進役として引き継ぐ | PgM |
「稼働後6か月まで支援を続ける」のところが、PJの計画には入りにくい部分です。PJは稼働で終わるからです。だからチェンジマネジメントはプログラムが持つ——これがプログラムマネジメントの役割になります。
■ 活用シーン
展開の順番を決めるとき:段階が進んでいる部署から始めると、成功事例を作りやすくなります。
研修の設計:段階4の人数がわかれば、研修の規模と回数が決まります。
反対の中身を計画に反映する:自由記述が、計画の抜けを教えてくれます。
定着の遅れを見つける:稼働したのに段階4が増えないときは、手順や支援に問題があります。
運営委員会への報告:段階の内訳の推移が、そのまま定着の進み具合を示します。
■ よくある失敗と直し方
失敗 | 何が起きるか | 直し方 |
|---|---|---|
全員に研修をする | 段階1・2・3の人には効かない | まず測り、段階ごとに打ち手を変える |
反対を「抵抗」として扱う | 正当な業務上の懸念を見逃す | 自由記述で理由を集め、分類して対応する |
「失うもの」を書いていない | 反対の理由がわからない | 対象グループごとに必ず書く。書けないなら理解が足りない |
PgMや情報システム部門が伝える | 「またシステム部門が何か言っている」で終わる | その人たちが信頼している人に伝えてもらう |
稼働日で活動を終える | 段階4で止まり、5に進まない | 稼働後6か月まで支援を続ける計画にする |
測定を1回しかしない | 打ち手が効いたかわからない | 四半期ごとに同じ設問で測り、変化を見る |
■ 導入効果
みどり市役所の、段階の内訳の推移です。
段階 | 2024年10月 | 2025年3月 | 2025年9月 |
|---|---|---|---|
1 知らない | 612名 | 304名 | 148名 |
2 反対 | 148名 | 120名 | 96名 |
3 様子見 | 398名 | 452名 | 372名 |
4 やってみる | 68名 | 296名 | 418名 |
5 定着 | 14名 | 68名 | 206名 |
電子申請率(市民側) | 30% | 34% | 38% |
「反対」が148名から96名へ減っています。説得したからではありません。反対の理由に対応したからです。紙の申請を残すと明記しただけで、38件の懸念が消えました。
■ まとめ
チェンジマネジメントは、打ち手を考える前にまず測ります。10問のアンケートで足ります。
受け入れには5段階あり、段階ごとに効く打ち手が違います。研修が効くのは段階4だけです。
反対の理由を自由記述で集めます。ほとんどが正当な業務上の懸念で、計画の抜けを教えてくれます。
対象グループごとに「この変化で失うもの」を書きます。ここが書けないと、反対の理由はわかりません。
伝えるのはPgMではなく、その人たちが信頼している人です。
稼働日ではなく、稼働後6か月まで支援を続けます。ここはプログラムが持つ役割です。
次回は、その支援の中身のひとつである「教育・研修計画表」のテンプレートを紹介します。