プログラムRAIDログのテンプレート
プログラムを進めていると、心配ごとがどんどん増えていきます。「この前提、本当に大丈夫だろうか」「あのPJの遅れがこちらに響きそうだ」「もう起きてしまった、誰が対応するのか」。
これらを別々のメモで管理していると、必ず取りこぼします。そこで使うのがRAIDログです。R(リスク)、A(前提)、I(課題)、D(依存)の頭文字をとった呼び方で、4種類を1つの台帳にまとめて管理します。
この記事では、プログラム全体のRAIDログのテンプレートと、使い方を紹介します。はじめての方にもわかるように、RAIDそれぞれの意味から説明します。
■ 背景・よくある課題
プログラムでは、心配ごとの管理が次のようにつまずきます。
よくある状態 | なぜ起きるか | その結果 |
|---|---|---|
リスク表・課題表・依存表がバラバラ | 担当者ごとに使いやすい形で作っている | 前提がくずれてもリスクに移されず、消える |
各PJの表をそのまま集めている | プログラムとして選んでいない | 200行を超え、どれが重要かわからない |
登録したきり更新されない | 見直す日が決まっていない | 半年前のままの行が並び、台帳が信用されなくなる |
担当者が「PMO」になっている | 実際に動く人を決めていない | 誰も動かず、期日だけが過ぎる |
閉じる基準がない | 終わったかどうかの判断があいまい | 行が増え続け、見るのが苦痛になる |
とくに多いのが、前提(A)と依存(D)を管理していないケースです。リスクと課題だけを見ていると、「そもそもの前提がくずれていた」「他のPJの遅れが効いていた」という、プログラム特有の問題に気づくのが遅れます。
■ RAIDの4種類とは
4つの意味を、まず整理します。
記号 | 読み方 | 意味 | 例 |
|---|---|---|---|
R | リスク(Risk) | まだ起きていないが、起きたら困ること | 移行データの品質が悪く、稼働が延びるおそれ |
A | 前提(Assumption) | 「こうなるはず」と決めつけて進めていること | 業務部門から2名が4月から参加してくれるはず |
I | 課題(Issue) | すでに起きていて、いま困っていること | レビュー返却が9営業日かかり、開発が止まっている |
D | 依存(Dependency) | 他のPJの成果物がないと進めないつながり | C1はC4の認証基盤が3月にないと着手できない |
この4つは、独立したものではありません。放っておくと、おたがいに姿を変えていきます。

前提がくずれればリスクになり、リスクが現実になれば課題になります。依存先が遅れそうなら、それもリスクです。1つの台帳にしておくと、種類の欄を書き換えるだけで移せる——これがRAIDログを1つにまとめる一番の理由です。
■ テンプレートの全体像
プログラムRAIDログは、次の14項目で作ります。表計算ソフト1シートで足ります。
# | 項目 | 書くこと |
|---|---|---|
1 | ID | R-01、A-05のように種類+連番。種類が変わってもIDは変えない |
2 | 種類 | R/A/I/D のいずれか |
3 | 登録日 | 最初に台帳に載せた日 |
4 | タイトル | 25字以内。一覧で読んで意味がわかる長さにする |
5 | 内容 | 何が心配か、何が起きているかを3行以内で |
6 | 関係するPJ | C1、C2など。複数可。プログラム全体なら「全体」 |
7 | 影響するベネフィット | B-01などのID。効かないなら「—」 |
8 | 影響度 | 大/中/小。金額・期間・ベネフィットのどれかで測る |
9 | 可能性 | 高/中/低。RとDのみ。IとAは空欄 |
10 | 対応方針 | 回避/低減/転嫁/受容/対応中/解消 のいずれか |
11 | 対応内容 | 具体的に何をするか。「注視する」は書かない |
12 | 担当者 | 個人名。部署名・「PMO」は不可 |
13 | 期日 | 次に状況が変わる日。決まっていないなら次回レビュー日 |
14 | 状態/最終更新 | 未着手/対応中/完了/クローズ と、最後に触った日 |
項目を増やしたくなりますが、増やすほど更新されなくなります。14項目でも多いと感じるなら、7と9を省いてもかまいません。
■ プログラムの台帳に載せる基準
一番よくある失敗は、各PJのRAIDを全部集めてしまうことです。プログラムの台帳には、次のどれか1つにあてはまるものだけを上げます。
複数のPJにまたがる:1つのPJでは解決できないもの
ベネフィットに効く:ねらった効果が出なくなるおそれがあるもの
PgMの権限が要る:予備費の使用、優先順位の変更、ベンダーとの再交渉など
影響額が基準を超える:たとえば500万円以上、または3か月以上の遅れ
これにあてはまらないものは、各PJの台帳に置いたままにします。上げる/上げないの判断は、隔週の推進会議でPgMが決めます。「迷ったら上げる」ではなく「迷ったらPMに理由を聞く」が正解です。
■ 記入例:クラウドリーフ「プロダクト基盤刷新プログラム」
SaaS企業クラウドリーフ(ARR68億円・契約3,200社)が進めるプロダクト基盤刷新プログラム(2025年1月〜2027年6月、承認枠7億4,000万円、構成PJ4本)の、2025年9月時点のRAIDログです。全62件のうち、代表的な6件を抜粋します。
ID | 種類 | タイトル | 関係PJ | 影響/可能性 | 対応内容 | 担当 | 期日 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
A-03 | A 前提 | 旧基盤の停止を2027年3月に実施できる | C1・C4 | 大/— | 10月の役員会で停止時期を正式決定してもらう | 藤原 | 2025/10/24 |
D-05 | D 依存 | C2の課金統合はC1の認証基盤に依存 | C1→C2 | 大/中 | C1のAPI仕様を2025年11月に凍結し、C2へ先行提供 | 佐野 | 2025/11/28 |
R-11 | R リスク | テナント移行時に一部顧客で設定が欠落するおそれ | C1 | 大/中 | 上位200社分の設定を事前比較し、差分を手動補正する | 大沢 | 2025/12/12 |
R-18 | R リスク | 解約率の改善が想定より遅れる | 全体 | 大/中 | 四半期ごとに解約理由を分析し、C3の分析項目に反映する | 藤原 | 2025/12/26 |
I-07 | I 課題 | C1とC2で顧客IDの桁数の考え方が違う | C1・C2 | 中/— | 10月10日のアーキテクチャ会議で統一案を決定する | 佐野 | 2025/10/10 |
I-09 | I 課題 | SRE要員2名が運用対応にとられ、C1の作業が遅延 | C1 | 大/— | 外部SRE1名を11月から3か月追加(予備費420万円を申請) | 藤原 | 2025/10/31 |
件数の内訳は次のとおりです。
種類 | 件数 | うち影響度「大」 | 今月の増減 |
|---|---|---|---|
R リスク | 24件 | 7件 | +3件/−1件 |
A 前提 | 18件 | 4件 | ±0件 |
I 課題 | 11件 | 3件 | +2件/−2件 |
D 依存 | 9件 | 5件 | ±0件 |
合計 | 62件 | 19件 | +5件/−3件 |
依存(D)の9件のうち5件が「大」になっているのは、プログラムとしてはふつうのことです。依存はもともと、1つのPJでは解決できないから台帳に上がってきます。依存だけ影響度が高く出るのは、健全なサインと考えてよいでしょう。
■ 運用ルール
台帳は、作ったあとの運用がすべてです。クラウドリーフでは次のように決めています。
タイミング | やること | 誰が |
|---|---|---|
随時 | 気づいたらその場で1行追加する(入力5分以内の項目だけ埋めればよい) | 誰でも |
隔週の推進会議 | 今週動いた行だけをレビューし、PJの台帳から上げるものを決める | PgM・PM |
月1回 | 影響度「大」の全19件を確認。期日切れの行を洗い出す | PgM・PMO |
月1回(運営委員会) | 「大」のうち、判断が必要なものだけを報告する | PgM |
四半期 | 前提(A)を全件見直す。くずれていればリスクに変える | PgM・PM全員 |
とくに大事なのが、四半期の前提の棚おろしです。前提は「変わったら教えてくれる」ものではありません。誰も気づかないまま、静かにくずれます。3か月に1回、全件を声に出して読み合わせるだけで、かなり拾えます。
もう1つ、閉じる基準も決めておきます。「対応が完了し、2週間たっても再発していない」ならクローズ。クローズした行は削除せず、別シートに移します。あとで似た問題が起きたとき、過去の対応が参考になります。
■ 活用シーン
月次報告書の材料として:「今月増えた/消えた/悪化した」の3つは、RAIDログから機械的に抽出できます。
ステージゲート審査で:影響度「大」の未クローズ件数は、ゲートを通す/通さないの判断材料になります。
予備費の申請根拠に:I-09のように、台帳の1行がそのまま申請書の理由になります。
PJ間の調整の場で:依存(D)の行を一緒に見ながら話すと、感情論になりにくくなります。
■ よくある失敗と直し方
失敗 | 何が起きるか | 直し方 |
|---|---|---|
各PJのRAIDを全部集める | 200行を超えて誰も見なくなる | 上げる基準(4条件)を明文化し、PgMが仕分けする |
前提(A)を登録していない | くずれたことに誰も気づかない | 四半期に1回、全件の読み合わせをする |
対応内容が「注視する」 | 何もしないのと同じ | 「誰が・いつ・何をする」が書けないなら、受容と書いて割り切る |
担当者が部署名になっている | 誰も自分ごとにしない | 個人名しか入力できないようにする |
期日が空欄・過去のまま | 台帳が信用されなくなる | 期日切れの行を月次で色づけし、会議の冒頭で必ず読む |
クローズした行を消してしまう | 同じ問題が別のPJで再発する | 削除せず別シートへ。新規登録時に過去分を検索する運用にする |
■ 導入効果
クラウドリーフでは、PJごとのバラバラな管理からプログラムRAIDログに切り替えて、次のように変わりました。
項目 | 切り替え前 | 切り替え後 |
|---|---|---|
管理している表の数 | PJごとに3〜4表(計14表) | 1表 |
プログラム台帳の行数 | 218行(全PJ分の合計) | 62行 |
期日切れの行の割合 | 34% | 6% |
前提がくずれてから気づくまで | 平均11週間 | 平均4週間 |
推進会議でのRAID確認時間 | 45分 | 15分 |
行数が3分の1以下になったのに、見逃しは減っています。管理する量を減らすことが、管理の質を上げるという、プログラムマネジメントらしい結果です。
■ まとめ
RAIDログは、リスク(R)・前提(A)・課題(I)・依存(D)を1つの台帳で管理するしくみです。
4種類はおたがいに姿を変えます。1つの表にしておけば、種類の欄を書き換えるだけで移せます。
プログラムの台帳に上げるのは、複数PJにまたがる/ベネフィットに効く/PgMの権限が要る/影響額が基準超え、のどれかにあてはまるものだけです。
前提(A)は誰も教えてくれないので、四半期に1回、全件を読み合わせます。
担当は個人名、対応内容に「注視する」は書かない。この2つを守るだけで、台帳は動き出します。
次回は、複数のプロジェクトのリスクをまとめて見える化する「プログラム・リスク統合管理表」のテンプレートを紹介します。