プログラム体制図・役割分担表のテンプレート
プログラムの体制図でいちばんよく見る失敗は、箱と線はあるのに、誰が何を決めてよいのかが書かれていないことです。その結果、プロジェクト間の小さな調整のたびに役員を呼ぶことになり、PgMは調整役ではなく伝書鳩になります。
この記事では、プログラムの体制図と役割分担表のテンプレートを紹介します。ポイントは、「決めてよい範囲」を金額と日程の数字で書くことと、作る責任と使われる状態にする責任を分けることの2つです。記入例は、ミライアパレル(架空)の「OMO変革プログラム」です。
■ 1. 背景・よくある課題
よくある状態 | 何が起きるか |
|---|---|
箱と線だけの体制図になっている | 誰が何を決めてよいかが分からず、全部が上に上がる |
PgMとPMOの役割が重なっている | 同じ作業を2人がやる、あるいは両方がやらない |
PgMが構成プロジェクトのPMを兼務している | 目の前のプロジェクトに追われ、全体を見る時間が無くなる |
業務部門が体制図に入っていない | 「使われる状態にする」責任者が不在になる |
運営委員会の委員に、影響の大きい部門長が入っていない | 終盤で「聞いていない」と言われて止まる |
ベンダーが体制図の外にある | 誰が窓口かが不明確で、依頼が個人ルートで飛ぶ |
■ 2. テンプレート作成の目的
目的 | 具体的にどうなることか |
|---|---|
決めてよい範囲を数字で決める | PgMが即決できる金額と日程の上限を書く |
PgMとPMOの分担をはっきりさせる | 「決める人」と「そろえる人」に分ける |
作る責任と使う責任を分ける | PMは成果物、業務部門長はベネフィットに責任を持つ |
会議体と層を対応させる | どの層が、どの会議で、何を決めるかを一致させる |
兼務に期限をつける | 立ち上げ期の兼務が、そのまま常態化するのを防ぐ |
■ 3. 体制は3層で考える

3層に分けるのは、決めることの大きさが層ごとに違うからです。層と会議体を1対1で対応させておくと、「この話はどこで決めるのか」で迷わなくなります。
層 | 決めること | 会議体 | 頻度 |
|---|---|---|---|
意思決定層 | 予算、スコープ、稼働日、中止の判断 | プログラム運営委員会 | 月1回・60分 |
プログラム管理層 | プロジェクト間の優先順位、資源の配分 | プログラム推進会議 | 隔週・45分 |
実行層 | プロジェクト内の計画、要員、課題対応 | 各プロジェクトの定例 | 週1回・30分 |
図の下にある注記が、実務上いちばん大事な点です。PgMが構成プロジェクトのPMを兼務し続けると、全体を見る時間がなくなります。立ち上げ期に兼務するのは現実的ですが、必ず期限を決めてください。ミライアパレルでは「2025年4月以降は専任に戻す」と体制図に明記しています。
■ 4. PgMとPMOの分担
この2つは、混ざりやすい役割です。PgMは決める人、PMOはそろえる人と覚えておくと整理しやすくなります。
仕事 | PgM | PMO |
|---|---|---|
ベネフィットの達成 | 責任を持つ | 測定の段取りを整える |
プロジェクト間の優先順位 | 決める | 判断材料を用意する |
資源(人・金)の配分 | 決める | 現状を集計して見せる |
ステージゲートの判定 | 判定する(委員会に諮る) | 判定材料をそろえる |
帳票の様式と運用ルール | 承認する | 作る・配る・回す |
月次報告の作成 | 結論と依頼事項を書く | 数字を集約する |
依存関係の管理 | 調整して決める | 台帳を維持し、期限を追う |
各PMの支援 | 判断を助ける | 手続きと様式を助ける |
PMOの人数は、構成プロジェクト2〜3本につき1名が目安です。5本のミライアパレルでPMO3名は、やや厚めの配置になります。これは「移行・定着の支援もPMOが担当する」という設計のためです。
■ 5. 決めてよい範囲(権限表)
体制図とセットで、必ずこの表を作ります。金額と日程の数字で書くのがコツです。
判断の種類 | 各PM | PgM | 運営委員会 |
|---|---|---|---|
プロジェクト内の予算の使い方 | 計画額の範囲で可 | ― | ― |
プロジェクト間の予算の振り替え | 不可 | 1件2,000万円/年5,000万円まで | それを超えるもの |
プログラム予備費の使用 | 不可 | 1件1,000万円まで | それを超えるもの |
プロジェクト内の日程変更 | 稼働日に影響しない範囲で可 | ― | ― |
構成プロジェクトの稼働日の変更 | 不可 | プログラム最終期日に影響しない範囲 | それを超えるもの |
要員の配置換え | プロジェクト内で可 | プログラム内で可 | 他部門からの追加 |
構成プロジェクトの追加・中止 | 不可 | 提案のみ | 決定 |
ベネフィット目標値の変更 | 不可 | 不可 | 決定 |
ベンダーとの契約変更 | 提案のみ | 1件1,000万円まで | それを超えるもの |
この表があると、推進会議で「これはPgM判断で進めます」「これは委員会に上げます」がその場で決まります。表が無いと、迷ったものはすべて上に上がり、月1回の委員会待ちになります。
■ 6. 作る責任と、使われる状態にする責任
プログラム体制図の特徴は、業務部門長が正式なメンバーとして入ることです。システムを作るのはPMの責任ですが、それが使われる状態になるのは業務部門の責任です。
ベネフィット | 作る責任(PM) | 使われる状態にする責任(部門長) |
|---|---|---|
B-01 欠品損失 | P1 村瀬 | 店舗運営部長 |
B-02 値引き率 | P2 佐々木 | 商品部長 |
B-03 EC売上比率 | P3 岡田 | EC事業部長 |
B-04 在庫問い合わせ | P1 村瀬/P5 | 店舗運営部長 |
B-05 物流コスト率 | P4 中井 | 物流部長 |
B-06 クロスチャネル率 | P3 岡田/P5 | EC事業部長・店舗運営部長 |
右の列を体制図の中に描くことに意味があります。図の外にいる人は、自分がプログラムの一員だとは思いません。「ベネフィット責任者」という役割名で図の中に入れると、四半期のレビューへの出席も自然になります。
■ 7. 運用ルール
ルール | 内容 | 理由 |
|---|---|---|
層と会議体を1対1にする | 層ごとに会議体を1つだけ置く | 「この話はどこで決めるのか」で迷わない |
権限表を体制図とセットで配る | 体制図だけを配らない | 箱と線だけでは、何も決まらない |
兼務には期限を書く | 「2025年4月まで」と図に明記する | 立ち上げ期の兼務が常態化する |
ベネフィット責任者を図に入れる | 業務部門長を正式なメンバーにする | 図の外の人は、自分ごとだと思わない |
ベンダーの窓口を1人に決める | 各社のPLを図に入れ、依頼経路を一本化する | 個人ルートの依頼が、変更管理をすり抜ける |
体制が変わったら図を更新する | 人の交代も含めて、月次で確認する | 古い体制図は、連絡先として機能しない |
■ 8. 活用シーン
場面 | 使い方 |
|---|---|
プログラムの立ち上げ | 憲章の体制欄として、権限表とセットで承認を取る |
推進会議の運営 | 権限表を見て、その場で決めるか委員会に上げるかを決める |
新しいプロジェクトの追加 | PMとベネフィット責任者を決めてから追加する |
要員の交代 | 後任が決まるまで、誰が代理を務めるかを図に明記する |
四半期のベネフィットレビュー | ベネフィット責任者を招集する名簿として使う |
新しいメンバーの参加時 | この1枚で、誰に何を聞けばよいかが分かる |
■ 9. よくある失敗と直し方
失敗 | 起きること | 直し方 |
|---|---|---|
箱と線だけの図 | すべての判断が上に上がる | 権限表を作り、金額と日程で範囲を書く |
PgMがPMを兼務し続ける | 全体を見る時間が無くなる | 兼務に期限を書き、期限が来たら専任に戻す |
PMOが「報告を集める係」になっている | 数字は集まるが、判断が早くならない | PMOの仕事を「判断材料をそろえる」と定義し直す |
業務部門が図の外にいる | 使われる状態にする責任者が不在 | ベネフィット責任者として図の中に入れる |
委員に必要な部門長が入っていない | 終盤で「聞いていない」と言われる | ステークホルダーマップの影響度「大」を、委員に入れる |
PMOが1名でプロジェクト6本 | 集計だけで手一杯になる | 2〜3本に1名を目安に増やすか、帳票を減らす |
■ 10. 導入効果
観点 | 体制図だけのとき | 権限表をセットにしたとき |
|---|---|---|
プロジェクト間の調整 | 毎回、運営委員会を待つ(最大1か月) | 2,000万円まではPgMが即決できる |
PgMの役割 | 伝書鳩になる | 決める人になる |
PMOの役割 | 報告を集める係 | 判断材料をそろえる役 |
ベネフィットの責任 | 誰も持っていない | 部門長が正式な役割として持つ |
兼務の扱い | なし崩しで常態化する | 期限つきの例外として管理される |
■ まとめ
プログラムの体制図は、権限表とセットで初めて意味を持ちます。箱と線を描くのに30分、権限表を作るのに半日。かかる時間は後者のほうが長いですが、効くのも後者です。
作るときは、まず「PgMが1人で決めてよい金額はいくらか」を決めてみてください。その1行が決まると、残りの行は自然に埋まっていきます。