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変更依頼票(CR票)・変更管理台帳のテンプレート

プロジェクトの費用がふくらむとき、その原因は「大きな判断ミス」ではないことがほとんどです。ひとつ20万円、30万円の小さな追加要望が、誰にも止められないまま積み上がっていく。気づいたときには数千万円になっていた——という形で表面化します。

この記事では、それを防ぐための変更依頼票(CR票)と変更管理台帳のテンプレートを紹介します。大事なのは様式の細かさではなく、要望の入口をひとつにすることと、可否の判定を個人ではなく会議体に移すこと。この2つです。記入例は、事例集の「みどり市役所(架空)の電子申請システム構築」に当てはめています。


■ 1. 背景・よくある課題

変更管理がうまくいかないプロジェクトには、共通した形があります。

よくある状態

何が起きるか

要望が口頭・メール・チャットで、担当者に直接届く

PMが把握しないまま着手され、後から請求が来る

可否をPMや設計担当が1人で判断している

「断る」が人間関係の問題になり、断れなくなる

「追加かどうか」の物差しが決まっていない

市側は契約に含まれる、ベンダーは含まれないと読み、毎回もめる

承認の記録が残っていない

誰が決めたか分からないので、後から取り消すこともできない

承認後に台帳・WBS・契約額を更新していない

予算の残りが分からなくなり、超過に気づくのが遅れる

みどり市役所の案件では、要件定義が終わった2024年11月から3か月のあいだに、147件の追加要望が積み上がりました。ベンダーからの追加見積りは3,260万円。当初契約額1億4,800万円と合わせると1億8,060万円になり、債務負担行為の限度額1億6,500万円を1,560万円超える見通しでした。

ここで調べたのは金額ではなく、147件がどうやって入ってきたかでした。

依頼の経路

件数

割合

承認の記録

口頭(窓口での会話・電話)

62件

42%

なし

メール本文での依頼

71件

48%

なし

所定の様式での依頼

14件

10%

あり

合計

147件

100%

記録ありは14件(9.5%)

147件のうち133件は、誰が決めたか分からない状態で入っていました。金額がふくらんだのは、各課の要望が贅沢だったからではありません。要望を受け取る入口が無かったからです。入口が無ければ、要望はいちばん近くにいる人のところへ直接行きます。

図 変更要望の入口をひとつにする前と後

この図の左が、入口が無かったときの状態です。右が、CR票に一本化したあとの状態です。変えたのは経路と判定の場所だけで、要望そのものを断ったわけではありません。


■ 2. テンプレート作成の目的

目的

具体的にどうなることか

要望の入口をひとつにする

「CR票が無ければ着手しない」を、契約の覚書として明文化する

判定を会議体に移す

断る・先送りするが、個人の判断ではなく組織の決定になる

同じ物差しで判定する

A〜Dの分類を先に決め、毎回同じ基準で当てはめる

金額の残りを常に見えるようにする

承認のたびに台帳を更新し、限度額までの余裕を把握する

決めた経緯を残す

誰が、いつ、どの理由で承認したかを後からたどれるようにする

逆に、このテンプレートは要望を減らすための道具ではありません。現場が困っているなら、その要望は正しいものです。テンプレートがするのは、その要望を「今期にやるか、次期に回すか、そもそも契約に含まれているか」を整理して見せることだけです。


■ 3. テンプレートの全体像

4つの部品でできています。Excelでもスプレッドシートでも構いません。

部品

形式

役割

作る人

① CR票(変更依頼票)

1件1枚

依頼の内容と、それが無いと何に困るかを書く

依頼元の部署

② 変更管理台帳

1件1行の一覧

全CR票の状態・金額・判定をひとつの表で管理する

PM

③ 判定基準表

A4で1枚

A〜Dの分類と、その判断の仕方を決めておく

PM+発注者

④ 月次サマリ

表1枚

増えた分と減った分、限度額までの残りを部長会に報告する

PM

①と②だけでも始められます。ただし③の判定基準表を先に作らずに運用を始めると、1件目の判定でもめます。順番としては③→①②→④がおすすめです。


■ 4. 各項目の説明

① CR票(変更依頼票)の記入項目

項目

何を書くか

書き方のコツ

CR番号

CR-001 のような通し番号

受理したPMが採番する。起票時は空欄でよい

依頼日/依頼元

日付と、部署・氏名

「情報政策課」ではなく「情報政策課 ○○」と個人まで書く

変更の内容

何をどう変えたいか

画面名・帳票名・手続き名まで具体的に書く

この変更が無いと、何が、どう困るか

困りごとを件数や時間で書く

この欄がこのテンプレートの中心。空欄なら受理しない

希望時期

今期/第2期以降/稼働前必須

「至急」は使わない。理由とセットで書く

根拠(法令・制度改正など)

該当する場合のみ

ここが埋まるものはB判定になりやすい

影響調査結果(工数・費用・期間)

ベンダーが記入する

5営業日以内に概算で返す。精緻化は承認後

影響範囲

他機能・テスト・運用手順への波及

「テストケースが12件増える」まで書くと判定しやすい

判定(A〜D)

変更管理会議が記入する

判定者名と判定日を必ず残す

判定の理由

なぜその判定にしたか

1〜2行でよい。後から同種の依頼が来たときの基準になる

反映先チェック

台帳/WBS/見積書/契約/テスト計画

承認後の更新漏れを防ぐためのチェックボックス

② 変更管理台帳の列

列

記入する内容

CR番号/受付日

通し番号と、PMが受理した日

依頼元/件名

部署名と、20文字程度の要約

状態

受付/調査中/判定待ち/承認/却下/保留/第2期送り

判定

A/B/C/D

金額

影響調査で出た概算費用(円)

今期計上額

今期の契約額に加える金額。第2期送りは0円

相殺したもの

ゼロサム枠で今期から落とした対象と金額

判定日/判定者

変更管理会議の開催日と議長名

反映済みフラグ

WBS・見積書・契約への反映が終わったか

③ 判定基準表(A〜Dの分類)

判定

意味

判断の目安

費用の扱い

A

当初要件に含まれる

要件定義書・提案書に記載がある、または読み方の違いによるもの

0円(契約の範囲内で対応)

B

法令・制度改正への対応

対応しないと稼働できない、または違法になる

今期に計上(原則として全件対応)

C

あると便利(業務効率の向上)

無くても業務は回るが、手間が減る

ゼロサム枠の範囲でのみ今期に計上

D

重複、または困りごとが書けなかったもの

既存のCRと同内容、あるいは必要性を説明できない

取り下げ


■ 5. 記入例(架空自治体:みどり市役所)

みどり市(人口18万2,000人)の「市民向け電子申請・窓口予約システムの構築」プロジェクト(68手続き・15か月・当初契約額1億4,800万円)の台帳から、抜粋したものです。

CR番号

依頼元

件名

金額

判定

今期計上

判定の理由

CR-018

市民課

住民票申請画面に世帯員一覧を表示

0円

A

0円

要件定義書3.2節に記載あり。読み方の違い

CR-031

保険年金課

2025年4月の制度改正に伴う保険料区分の追加

180万円

B

180万円

対応しないと4月以降の申請を受理できない

CR-047

子育て支援課

添付書類の不足を申請時に自動チェック

80万円

C

80万円

月420件の差戻しが減る。ゼロサム枠で今期に採用

CR-052

支所(東)

支所ごとの予約枠を個別に設定

140万円

C

0円

当面は本庁と同一枠で運用可能。第2期へ

CR-063

市民課

申請完了メールの文面を変更したい

30万円

D

0円

CR-022と同内容。CR-022に統合し取り下げ

CR-047の「困りごと」欄には、こう書かれていました。「添付書類の不足による差戻しが月420件あり、1件あたり職員6分・市民の再申請10分がかかっている」。金額80万円に対して、職員だけで月42時間の削減になります。この書き方だからこそ、会議で「入れる」と決められました。

一方CR-052は、困りごとが「支所ごとに混み方が違う」だけで、件数も時間も書かれていませんでした。会議では「当面は本庁と同じ枠で試し、3か月後の実績を見て第2期で判断する」となっています。断ったのではなく、判断する時期を後ろにずらしたという記録が台帳に残っている点が大事です。


■ 6. 運用ルール

CR票は、次の5つのステップを通ります。それぞれのステップに「止まりやすい場所」があるので、先に手当てしておきます。

図 CR票が通る5つのステップと、止まりやすい場所

運用上の決めごとは、次の6つです。

ルール

内容

理由

CR票でのみ受け付ける

口頭・メール本文だけの依頼にベンダーは着手しない。契約の覚書として明文化する

これを文章にしないと、現場の善意で着手が続いてしまう

困りごとを書いてもらう

「欲しい機能」ではなく「無いと何にどう困るか」を件数・時間で書く

書くのに手間がかかる分、本当に困っているものだけが残る

判定は変更管理会議で

隔週開催、課長級以上が出席。PMが個別に判断しない

1対1だと断ることが人間関係の問題になる

A〜Dの4分類で判定する

基準を先に決め、毎回同じ物差しを使う

件数が増えても判定がぶれない

ゼロサム枠で調整する

C判定を今期に入れるなら、同額分を今期から落とす。落とすものは部長会が決める

「入れる/断る」の二択から抜け出せる

月次で部長会に報告する

増えた分と減った分をセットで出し、限度額までの残りを示す

超過に気づくのが早くなる

この6つの中でいちばん効くのが、2つめの「困りごとを書いてもらう」です。「こういう機能が欲しい」は誰でも書けますが、「これが無いと、月に何件の申請で、誰が、どれだけ余計な手間をかけるか」は、書くのに手間がかかります。結果として、本当に困っているものだけがCR票になります。

そして5つめのゼロサム枠が、この仕組みの要です。全部入れれば限度額を超え、全部断れば使いにくいシステムになります。「今期に入れるなら同額分を落とす」と決めておけば、要望を断らずに総額を守れます。落とすものを依頼した課ではなく部長会が決める、という点も大切です。


■ 7. 活用シーン

場面

使い方

要件定義の終盤

要件凍結の宣言とセットで、CR票の運用開始を通知する

設計・製造フェーズ

隔週の変更管理会議で、前回以降に受理したCRを判定する

すでに要望が膨らんだあと

受け付け済みの要望を、新しい判定基準で一度通し直す

ベンダーとの精算協議

台帳の承認記録を根拠に、追加費用の内訳を突き合わせる

フェーズ移行の判定

保留中のCRを棚卸しし、次フェーズに持ち越すものを決める

第2期の計画づくり

「第2期送り」の行がそのまま次期の要望リストになる

3つめの「すでに膨らんだあと」は、実際にいちばん多い使いどきです。みどり市も、147件がたまってから作り直しました。このとき大事なのは、147件を1件ずつ削ろうとしないことです。1件あたりの金額が小さいので、どれも削る理由が弱くなり、「22万円ですよね、それくらいなら」という会話が147回続くだけになります。


■ 8. 147件を通し直した結果

みどり市では、2025年2月末までの2週間で147件を全件分類しました。

判定

内容

件数

金額

今期の扱い

A

当初要件に含まれる(仕様の読み方の違い)

52件

0円

契約の範囲内で対応

B

法令・制度改正への対応(必須)

18件

1,200万円

今期に全件対応

C

あると便利(業務効率の向上)

61件

1,620万円

今期9件(720万円)/第2期52件(900万円)

D

重複、または困りごとが書けなかったもの

16件

440万円

取り下げ

合計

―

147件

3,260万円

―

意外だったのは、A判定が52件(35%)もあったことです。3分の1は追加でも何でもなく、最初から契約に含まれていました。要件定義書の書き方があいまいで、市側は「入っている」、ベンダーは「入っていない」と読んでいたのです。この52件をA判定として確定させたことで、追加費用が0円になっただけでなく、同じ争いが起きなくなりました。

金額の最終的な着地は次のとおりです。

項目

金額

当初契約額

1億4,800万円

B:法令・制度改正 18件

+1,200万円

C:今期に入れた9件

+720万円

当初スコープから第2期へ送った7手続き(ゼロサム枠)

−640万円

最終契約額

1億6,080万円(限度額1億6,500万円の97.5%)

作り直さなかった場合の見通し

1億8,060万円

技術的な工夫は1つも使っていません。「今期は作らない」と決めただけです。それを決められるようにしたのが、CR票と台帳と判定基準表でした。


■ 9. よくある失敗と直し方

失敗

起きること

直し方

CR票の様式が細かすぎる

書くのが面倒で、結局メールで依頼が来る

必須欄は5つに絞る。残りはPMが受理時に埋める

PMが1人で判定している

断れず、全件が承認になる

隔週の会議体に移し、議長は発注者側の課長級以上にする

「保留」が積み上がる

判定待ちが30件を超え、台帳が機能しなくなる

保留は次回で必ず決める。2回持ち越したら自動的に第2期送り

影響調査が数週間返らない

その間に現場が待てず、口頭依頼に戻る

5営業日で概算を返すルールにし、精緻化は承認後に行う

承認したのにWBSと契約額が古いまま

予算の残りが分からず、超過に気づくのが遅れる

台帳に「反映先チェック欄」を置き、未反映の行に色をつける

A判定を「ベンダーの負け」と扱う

ベンダーが影響調査に非協力的になる

A判定は契約解釈の確定であり、責任追及ではないと最初に合意する


■ 10. 導入効果

観点

導入前(2024年11月〜2025年1月)

導入後(2025年2月〜)

要望の受付経路

口頭42%・メール本文48%・所定様式10%

CR票100%

承認の記録

147件中14件(9.5%)

全件(台帳に判定日・判定者を記録)

判定する人

PMまたは設計担当が個別に判断

変更管理会議(隔週・課長級以上)

影響調査の返答

決まっていない(数週間かかることも)

5営業日以内に概算

最終契約額

1億8,060万円の見通し(限度額を1,560万円超過)

1億6,080万円(限度額の97.5%で着地)

納期

―

2025年10月1日に予定どおり稼働

手続き数は68から61に減りましたが、事業目的は達成できました。第2期へ送った7手続きの年間申請見込みは合計480件で、全体(年間5万4,000件)の0.9%にすぎません。落とすものを「金額」ではなく「利用見込み」で選んだから、影響が小さくて済んだのです。


■ まとめ

変更管理のテンプレートは、要望を断るための道具ではありません。要望に正しい入口と、決める場を用意するための道具です。

始めるときは、様式を作り込むより先に次の3つを決めてください。①CR票が無ければ着手しない、②判定は隔週の会議体で行う、③A〜Dの基準を紙1枚にまとめる。この3つが決まっていれば、CR票の欄がいくつかあいまいでも運用は回ります。逆にこの3つが無いまま立派な様式だけを配っても、要望はまた一番近くにいる人のところへ直接届くようになります。

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