体制図・役割分担表(RACI)のテンプレート
体制図は、たいてい組織の箱と線で描かれます。ただ、「その箱の人が何を決めるのか」は、体制図からは読み取れません。判断が要る場面でPMに問い合わせが集中するのは、多くの場合ここが原因です。
このページでは、体制図と役割分担表(RACI)をセットで作るテンプレートと、記入例、運用のしかたをまとめます。記入例は、事例集の「ミライアパレル(架空)の在庫一元化プロジェクト」に当てはめたものです。
■ この帳票が要る場面(背景・よくある課題)
よくある症状 | 本当の原因 |
|---|---|
判断が要るたびに、PMに問い合わせが来る | 誰が承認するかを、作業ごとに決めていない |
「それは自分の担当ではない」と互いに待つ | 1つの作業に実行者が複数いて、誰が手を動かすか決まっていない |
意見が割れて決まらない | 承認者が2人以上いる |
意見を聞く相手が多く、作業が進まない | 「相談する人」を付けすぎている |
後から「聞いていない」と言われる | 「知らせる人」を決めていない |
■ このテンプレートの目的
作業ごとに、決める人を1人に絞る:決まらない状態をなくします
手を動かす人を明確にする:互いに待つ状態をなくします
相談する人と、知らせる人を分ける:作業を止める人を最小限にします
体制図とRACIは、役割が違います。体制図は「誰がいるか」、RACIは「誰が何をするか」です。体制図だけでは、判断の所在は分かりません。
■ テンプレートの全体像
部品 | 形式 | 答えること |
|---|---|---|
① 体制図 | 図(階層) | 誰がいて、どういう関係にあるか |
② 役割分担表(RACI) | 表(行=作業、列=役割) | 作業ごとに、誰が実行し、誰が承認するか |
③ 意思決定の一覧 | 表(決めること × 決める人 × 金額の上限) | どこまでは現場で決め、どこからは上に上げるか |
③を作っておくと、RACIの「A」に書いた人が、どこまでの範囲で決められるかがはっきりします。たとえば「200万円未満はPM、それ以上は情報システム部長」のように、金額や影響日数で線を引くのが実務的です。
■ RACIの4つの記号

記号 | 意味 | 1行あたりの人数 | この人がすること |
|---|---|---|---|
R(Responsible) | 実行する人 | 1人以上 | 実際に手を動かし、成果物を作る |
A(Accountable) | 承認する人 | 必ず1人だけ | 出来上がりを判定し、責任を持つ |
C(Consulted) | 相談する人 | 2〜3人まで | 作業の前や途中で意見を出す(双方向) |
I(Informed) | 知らせる人 | 何人でもよい | 決まった結果を受け取る(一方通行) |
実務で効くのは、次の3つのルールです。
Aは1行に必ず1人:0人なら誰も決めません。2人なら意見が割れたときに止まります
Cは2〜3人まで:Cを付けた人全員から返事が来るまで、作業は進みません
迷ったらIにする:Iは一方通行なので、何人付けても作業は止まりません
「念のため入れておきたい人」は、ほぼすべてIで足ります。ここをCにしてしまうのが、RACIが機能しなくなるいちばんの原因です。
■ 記入例:ミライアパレル 在庫一元化プロジェクト
直営68店舗とECの在庫を一元化する案件です。社内8名+PMO1名+ベンダー14名(ピーク20名)の体制でした。
① 体制(要約)
層 | 役割 | 人数 | 所属 |
|---|---|---|---|
意思決定 | プロジェクトオーナー(経営企画本部長) | 1名 | 社内 |
意思決定 | ステアリングコミッティ(本部長級4名・月1回) | 4名 | 社内 |
推進 | PM | 1名 | 社内(情報システム部) |
推進 | PMO(進捗・課題・変更の事務局) | 1名 | 社内 |
業務 | 業務リーダー(店舗運営/EC/MD/物流) | 4名 | 社内 |
技術 | 技術リーダー | 1名 | 社内 |
技術 | ベンダーPL | 1名 | ベンダー |
技術 | 設計・開発・テスト担当 | 最大13名 | ベンダー |
② 役割分担表(RACI・抜粋)
作業 | PM | 業務リーダー | 技術リーダー | ベンダーPL | 情シス部長 | 店舗運営部長 |
|---|---|---|---|---|---|---|
要件の確定 | A | R | C | C | I | I |
業務フローの設計 | I | A / R | C | C | I | I |
システム方式の決定 | I | I | A | R | C | ― |
スコープ変更の判定(200万円未満) | A | C | C | I | I | I |
スコープ変更の判定(200万円以上) | R | C | C | I | A | C |
受入テストの合否判定 | I | R | C | I | I | A |
稼働の可否判断 | R | C | C | C | A | C |
店舗への告知 | I | R | ― | ― | I | A |
3つの行に注目してください。
「業務フローの設計」で A / R が同じ人:作る人と承認する人が同じでよい場面もあります。ただしこれは、成果物の影響範囲が部門内に閉じている場合に限ります
スコープ変更を金額で2行に分けている:200万円未満はPMが決め、それ以上は情シス部長が決める。これで小さな変更がいちいち上に上がらなくなります
「受入テストの合否判定」のAが店舗運営部長:使う側の責任者が判定します。作った側(PM・ベンダー)が判定すると、必ず通ってしまいます
③ 意思決定の一覧(抜粋)
決めること | 決める人 | 上限 | 上に上げる条件 |
|---|---|---|---|
仕様の変更 | PM | 200万円未満/スケジュール影響3日以内 | どちらかを超えたら情シス部長へ |
仕様の変更 | 情報システム部長 | 1,000万円未満/影響10日以内 | どちらかを超えたらステコミへ |
スコープの追加・削除 | ステアリングコミッティ | 承認枠の範囲内 | 承認枠を超えたら取締役会へ |
稼働日の変更 | ステアリングコミッティ | ― | 商戦期をまたぐ場合は取締役会へ |
要員の追加 | PM | 2名まで/月200万円以内 | それ以上は情シス部長へ |
この表があると、現場で決めてよいことの範囲がはっきりします。「念のため確認しておこう」が減り、判断が速くなります。
■ 運用ルール
RACIの行は、20〜30行にとどめる。すべての作業を書く表ではありません。判断が分かれやすい作業だけを選びます
Aが空欄の行、Aが2つある行を作らない。作った後に列方向ではなく行方向でチェックします
Cが4つ以上ある行は、見直す。1つ以上をIに変えられないか検討します
Rがない行を作らない。誰も手を動かさない作業になります
体制が変わったら、その週のうちに更新する。特に「A」の担当者が異動したときは最優先です
キックオフで、RACIの主要10行を読み上げる。配るだけでは読まれません
意思決定の一覧は、金額と日数の2軸で線を引く。金額だけだと、金額は小さいが影響の大きい変更が素通りします
■ 活用シーン
場面 | 使い方 |
|---|---|
キックオフ | 体制図とRACIの主要10行を示し、誰が何を決めるかを共有する |
判断が要る場面 | 該当行のAを見て、その人に持っていく。PMを経由しなくてよくなる |
変更依頼が来たとき | 意思決定の一覧を見て、自分で決めるか上に上げるかを判断する |
新しいメンバーが入ったとき | RACIの自分の列を見てもらう。何を任されているかが1分で分かる |
「聞いていない」と言われたとき | その作業のIに、その人が入っていたかを確認する。入っていなければ表を直す |
受入テストの前 | 合否判定のAが誰かを再確認する。ここがあいまいだと、判定が先送りになる |
■ よくある失敗と直し方
失敗 | 何が起きるか | 直し方 |
|---|---|---|
Aが2人以上ある | 意見が割れたときに決まらない | 行ごとにAを数える。2つあれば、どちらかをCに変える |
Aが空欄 | 誰も決めず、判断が先送りになる | 必ず1人置く。置けないなら、その作業の位置づけが不明確 |
Rが3人以上いる | 互いに「相手がやる」と思い、誰も着手しない | 主担当を1人に決め、他はCにする |
Cを付けすぎる | 意見が揃うまで作業が止まる | 「意見を反映する必要があるか」で判断。ないならI |
行が100行ある | 誰も見なくなる | 判断が分かれやすい作業だけに絞り、20〜30行にする |
受入テストのAを、作った側にする | 甘い判定になり、稼働後に問題が出る | 使う側の責任者をAにする |
体制変更時に更新しない | 異動した人の名前が残り、判断が止まる | 体制変更をトリガーに、その週のうちに更新する |
■ 導入効果
項目 | RACIがない場合 | RACIがある場合 |
|---|---|---|
判断の所在 | とりあえずPMに聞く | 該当行のAに直接持っていく |
小さな変更の処理 | すべて上に上がり、月1回のステコミ待ち | 200万円未満はPMが即決 |
着手の速さ | 誰がやるかの調整に数日かかる | Rが決まっているので、その日から動ける |
「聞いていない」の発生 | 終盤に出る | Iに入っている人には自動的に伝わる |
新メンバーの立ち上がり | 周囲に聞いて回る | 自分の列を見れば役割が分かる |
作成の手間 | ― | 初回で2〜3時間(20〜30行)。更新は体制変更時のみ |
ミライアパレルの案件では、変更依頼の判定を金額で2段階に分けたことが効きました。200万円未満の変更をPMが即決できるようにしたため、月1回のステアリングコミッティを待つ案件が大きく減っています。
最後に1つ。RACIを作る作業でいちばん価値があるのは、Aを1人に絞る話し合いです。「この判断は誰がするのか」を関係者で詰めていくと、実は誰も決める立場になっていなかった作業が見つかります。表が完成することより、その会話のほうが大事です。