前提・制約条件整理シートのテンプレート
見積りもスケジュールも、必ず何かの前提の上に立っています。「POSの更新は9月までに終わっているはず」「物流の在庫は1日1回の連携で足りるはず」。この「はず」が書かれていないと、外れたときに「そんな話は聞いていない」から始まります。
このページでは、前提条件・制約条件・スコープ外・未決事項を1枚に整理するテンプレートと、記入例、運用のしかたをまとめます。記入例は、事例集の「ミライアパレル(架空)の在庫一元化プロジェクト」に当てはめたものです。
■ この帳票が要る場面(背景・よくある課題)
このシートが効くのは、自分たちだけでは決められないことが多い案件です。
他部署の別計画に依存している(基盤更新、店舗改装、制度改正など)
契約・法令・社内規程で動かせない枠がある
要望が多く、どこまでやるかを線引きする必要がある
着手時点で、まだ決まっていないことが残っている
こうした案件で、このシートがないと起きることは次のとおりです。
よくある困りごと | 本当の原因 |
|---|---|
他部署の計画が遅れたと後で知り、慌てて作り直す | その計画に依存していることを、文書にしていなかった |
「これもやってくれると思っていた」と言われる | やらないことを書いていなかった。書いていないものは「やる」と解釈される |
変えられない枠を、変えようとして時間を使う | 制約条件と前提条件を区別していなかった |
着手時の未決事項が、半年後もそのまま残っている | 誰がいつまでに決めるかを書かず、課題管理表にも移していなかった |
■ このテンプレートの目的
計画がどんな条件の上に立っているかを、文書として残す:条件が変わったときに、計画のどこを直せばよいかがすぐ分かります
やらないことを明文化する:スコープの線引きは「やること」より「やらないこと」を書いたほうが揉めません
未決事項に期限をつけ、課題管理表へ引き渡す:着手時の宿題を、宙に浮かせないためです
このシートは契約書の代わりではありません。法的な効力を持たせるものではなく、関係者が同じ絵を見るための道具です。ただし、実務ではこの1枚があることで、後の議論がかなり楽になります。
■ テンプレートの全体像
4つのブロックでできています。似ているようで、扱い方がまったく違います。

区分 | 一言でいうと | 外れた/変わったときの動き | 見直しの頻度 |
|---|---|---|---|
① 前提条件 | そうであるとして計画を立てたこと | 計画を作り直す(影響を日数・金額で出す) | 確認期限ごと + 月1回 |
② 制約条件 | こちらでは変えられない枠 | 計画のほうを合わせる | 四半期に1回 |
③ スコープ外 | やらないと決めたこと | 増やすなら、同額ぶんを落とす | 変更が承認されたとき |
④ 未決事項 | まだ決まっていないこと | 期限までに決まらなければ計画が止まる | 週1回(課題管理表へ移す) |
4つの中で、最も書かれないのが①前提条件です。理由は簡単で、自分にとっては当たり前だからです。「POSが更新されているのは当然」と思っていることほど、書き落とされます。
■ 各項目の説明
① 前提条件の列
列 | 何を書くか | 書き方のコツ |
|---|---|---|
ID | A-01、A-02… | 区分ごとに記号を分ける(A=前提、C=制約、O=スコープ外、U=未決) |
前提の内容 | 「〜であるとして計画した」という文 | 「〜のはず」を「〜である」と言い切って書く。あいまいだと確認できない |
そう置いた根拠 | なぜそう考えたのか | 「別計画の工程表による」「サンプル500件の突合結果から」など出どころを書く |
外れた場合の影響 | 日数と金額 | この欄がこのシートの心臓部。「大きい」ではなく「+18人月・稼働+2か月」と書く |
確認の期限 | いつまでに確かめるか | 計画への影響が手遅れにならない日を逆算して決める |
確認する人 | 個人名または役職 | 「情報システム部」ではなく「情報システム部長」 |
状態 | 未確認/確認済み/外れた/見直し | 「外れた」になったら、必ず課題管理表に起票する |
② 制約条件の列
列 | 何を書くか | 書き方のコツ |
|---|---|---|
制約の内容 | 守らなければならないこと | 禁止事項として書く(「〜できない」「〜より後にできない」) |
出どころ | 契約/法令/社内規程/経営判断など | 出どころが分かると、本当に変えられないのかを後で検証できる |
変更の可否 | 変更不可/条件つきで可(その条件) | 「取締役会の再承認があれば可。ただし決裁に2か月」のように条件を明記 |
計画への影響 | この制約が計画の何を決めているか | 「全体スケジュールの起点」「切替は日曜深夜のみ」など |
③ スコープ外の列
列 | 何を書くか | 書き方のコツ |
|---|---|---|
やらないこと | 今回の範囲に含めない機能・作業 | 機能名だけでなく、業務としてどう扱うかも添える(「手動運用を継続」) |
外した理由 | なぜ今回はやらないのか | 「優先度が低い」では弱い。「売上比率2.1%」のように数字で書く |
いつやるか | 第2期/別案件/実施しない | 「実施しない」と「後でやる」は別物。混ぜると後で揉める |
合意した人・日付 | どの会議で、いつ決まったか | 議事録の日付を書く。これが後の証拠になる |
④ 未決事項の列
列 | 何を書くか | 書き方のコツ |
|---|---|---|
決めること | 「〜か、〜か」の形で | 選択肢が2つ以上あるように書く。「〜について」では決まらない |
決める人 | 決定権を持つ人 | PMではなく、権限のある人 |
期限 | 必ず日付 | 「随時」は禁止 |
決まらない場合の影響 | 計画のどこが止まるか | 「マスタ統合が着手できない」など具体的に |
移管先 | 課題管理表のID | 着手後は課題管理表で追う。このシートには移管の記録だけ残す |
■ 記入例:ミライアパレル 在庫一元化プロジェクト(UNITE)
直営68店舗とECの在庫を一元化する、11か月・総額2億3,200万円枠のプロジェクトです。
① 前提条件
ID | 前提の内容 | そう置いた根拠 | 外れた場合の影響 | 確認期限・確認者 | 状態 |
|---|---|---|---|---|---|
A-01 | 68店舗のPOSは2024年9月までに全店ver.7へ更新済みとなる | 情報システム部の別計画の工程表 | 在庫連携の開発 +18人月/稼働 +2か月 | 2024/6/28・情報システム部長 | 確認済み(8月完了に前倒し) |
A-02 | 物流拠点2か所の在庫データは、1日1回のバッチ連携で足りる | 現行業務の締め時刻から判断 | リアルタイム連携の追加で +24人月 | 2024/5/31・物流部長 | 確認済み |
A-03 | ECの商品マスタは、店舗側マスタにSKU単位で名寄せできる | サンプル500SKUの突合結果 | マスタ統合の追加作業 +12人月 | 2024/7/26・MD部長 | 条件つきで成立(1,240SKUは手作業) |
A-04 | 店舗スタッフへの集合研修は行わず、動画とマニュアルで足りる | 過去のPOS更新時の実績 | 研修費 +1,800万円/稼働準備 +3週間 | 2024/10/25・店舗運営部長 | 見直し(重点20店舗のみ集合研修) |
A-05 | 春物商戦の準備(2月)と受入テストは両立できる | 店舗運営部へのヒアリング | 受入テストの参加人数が半減し +2週間 | 2024/11/29・店舗運営部長 | 外れた(受入テストを1月に前倒し) |
A-05に注目してください。この前提は外れました。しかし、外れる可能性を11月末に確認する段取りになっていたため、受入テストを1月に前倒しする判断が間に合っています。書いていなければ、2月に入ってから「人が集まらない」と気づいたはずです。
② 制約条件
ID | 制約の内容 | 出どころ | 変更の可否 | 計画への影響 |
|---|---|---|---|---|
C-01 | 本番稼働は2025年3月1日より後にできない | 経営会議の決定(春物商戦の開始前) | 変更不可 | 全体スケジュールの起点 |
C-02 | 総費用は2億3,200万円以内 | 取締役会の承認(2024年2月) | 条件つきで可(再承認・決裁に2か月) | スコープ調整の判断基準 |
C-03 | 店舗の営業時間中はPOSを停止できない | 業務上の制約 | 変更不可 | 切替は日曜深夜のみ(月1回・最大4時間) |
C-04 | 会員の個人情報は、既存の会員基盤から外に出さない | 社内規程(情報セキュリティ基準) | 変更不可 | 連携はID参照のみ |
C-05 | 現行の物流委託先との契約が2025年9月まで継続 | 業務委託契約 | 変更不可 | 物流拠点側の改修は最小限にとどめる |
C-02だけ「条件つきで可」になっています。制約条件がすべて「変更不可」になっている表は、たいてい検証されていません。本当に変えられないのか、変えるには何が必要かを1つずつ確かめると、1つか2つは条件つきになります。
③ スコープ外
ID | やらないこと | 外した理由 | いつやるか | 合意 |
|---|---|---|---|---|
O-01 | 店舗間の在庫移動指示の自動化 | 効果が読めない。第1弾では手動運用を継続する | 第2期(2025年下期) | 2024/6/14 経営会議 |
O-02 | 海外ECモール3サイトとの在庫連携 | 売上比率2.1%で優先度が低い | 未定 | 2024/6/14 経営会議 |
O-03 | 需要予測にもとづく自動発注 | 在庫データが一元化されてからでないと精度が出ない | 第2期 | 2024/6/14 経営会議 |
O-04 | 会員向けアプリの改修 | 別プロジェクトで実施中 | 別案件で対応 | 2024/4/26 部門長会議 |
O-05 | 3年より前の在庫履歴の移行 | 参照実績が年12件と少ない | 実施しない(旧システムを参照専用で1年残す) | 2024/8/23 部門長会議 |
O-05の「いつやるか」が「実施しない」になっている点を見てください。第2期に送るものと、やらないと決めたものを同じ欄で区別しています。ここを「未定」でまとめてしまうと、1年後に「第2期でやるはずでは」という話になります。
④ 未決事項(着手時点)
ID | 決めること | 決める人 | 期限 | 決まらない場合の影響 | 移管先 |
|---|---|---|---|---|---|
U-01 | 名寄せできない1,240SKUを、手作業で直すか対象外にするか | MD部長 | 2024/8/30 | マスタ統合に着手できない | 課題 I-012 |
U-02 | 切替を全店一括で行うか、店舗を3群に分けるか | 情報システム部長 | 2024/9/27 | 切替計画が作れない | 課題 I-018 |
U-03 | EC側の欠品表示を、在庫0で出すか取り寄せ表示にするか | EC事業部長 | 2024/10/11 | 画面設計が確定しない | 課題 I-021 |
未決事項は3件だけです。着手時点で未決が10件を超えているなら、まだ着手してはいけない状態だと考えたほうがよいです。
■ 運用ルール
作るのは見積り提出の前。見積りの根拠として添付します。後から作ると、都合のよい前提を後付けすることになります
前提条件には、必ず「外れた場合の影響」を日数と金額で書く。書けない前提は、実は重要ではないか、影響が分かっていないかのどちらかです
前提の確認期限が来たら、状態を更新する。月次の定例で「今月が確認期限の前提」を読み上げます
「外れた」になった前提は、その日のうちに課題管理表へ起票する。このシートの中だけで持たないこと
未決事項は、着手から2週間以内にすべて課題管理表へ移す。このシートは着手時の記録として残します
スコープ外に追加するときは、合意した会議と日付を必ず書く。口頭の合意は記録しません
キックオフの資料に、このシートの要約を1ページ入れる。関係者が同じ絵を見る機会は、ここしかありません
7つのうち、最も効果があるのは3番目です。月次の定例で「今月が確認期限の前提」を読み上げるだけで、このシートは生きた文書になります。読み上げなければ、3か月で誰も開かなくなります。
■ 活用シーン
場面 | どこを見るか | 何ができるか |
|---|---|---|
見積りを出すとき | 前提条件・制約条件 | 「この条件が成り立つ前提での金額です」と明示できる |
キックオフ | 全体 | 関係者に「やること」より「やらないこと」を伝える |
他部署の計画が遅れたと聞いたとき | 前提条件 | 自分の計画への影響が日数で即答できる |
追加要望が来たとき | スコープ外 | 「これはO-01として第2期に合意済みです」と返せる |
スケジュールを変えたいと言われたとき | 制約条件 | 変えられない枠を示し、代わりに何を動かすかの議論に持ち込める |
フェーズの切れ目 | 前提条件の状態欄 | 外れた前提がないかを確認し、計画の見直し要否を判断する |
■ よくある失敗と直し方
失敗 | 何が起きるか | 直し方 |
|---|---|---|
前提条件に「外れた場合の影響」を書かない | 前提が外れても、誰も重大さに気づかない | 日数と金額を必ず入れる。書けないものは前提として登録しない |
前提と制約を混ぜる | 変えられるものを諦め、変えられないものに時間を使う | 「時間が経てば確かめられるか」で分ける。確かめられるものが前提 |
スコープ外を書かない | 書いていないものは「やる」と解釈され、終盤に膨らむ | 検討して外したものは、外した理由とともに必ず残す |
「第2期でやる」と「やらない」を区別しない | 1年後に「約束が違う」と言われる | 「いつやるか」の欄で明確に分ける |
未決事項を、このシートの中だけで持ち続ける | 週次で見られないので、半年後もそのまま残る | 2週間以内に課題管理表へ移し、移管先IDを記録する |
作ってから一度も更新しない | 前提が外れていることに、影響が出てから気づく | 月次定例で「今月が確認期限の前提」を読み上げる |
■ 導入効果
ミライアパレルの案件で、このシートが効いた場面を3つ挙げます。
場面 | シートがなかった場合 | あった場合(実際) |
|---|---|---|
A-05(春物商戦と受入テストの両立)が外れた | 2月に入ってから人が集まらないと気づき、テスト期間が2週間延びる | 11月末の確認で外れると判明し、受入テストを1月に前倒し。稼働日は動かなかった |
A-03(マスタの名寄せ)が条件つきになった | 統合作業の途中で1,240SKUの問題が出て、そこから対応を考える | 7月の確認で判明し、手作業の要員2名を8月から確保できた |
店舗間の在庫移動自動化を要望された | 「検討します」と答え、見積りを取り、断るまでに1か月 | 「O-01として6/14の経営会議で第2期と合意済み」と即答できた |
一般的な効果としては、次のように整理できます。
項目 | シートがない場合 | シートがある場合 |
|---|---|---|
前提が外れたときの発見 | 影響が出てから気づく | 確認期限に気づく(平均して数か月早い) |
追加要望への回答 | その場で判断するか、持ち帰る | 合意済みのものは即答できる |
見積りの説明 | 金額だけを説明する | 条件つきの金額として説明できる |
着手時の未決事項 | 宙に浮いたまま残る | 2週間以内に課題管理表へ移り、期限つきで追える |
作成にかかる手間 | ― | 初回で2〜3時間、月次の見直しは15分程度 |
最後に1つだけ。このシートで最も価値があるのは前提条件の「外れた場合の影響」の欄です。ここを日数と金額で埋めようとすると、自分がどれだけ他人の計画に依存しているかが見えてきます。見えていれば、確かめに行けます。見えていなければ、待つしかありません。