構成プロジェクト健全性評価シートのテンプレート
プログラムには複数のプロジェクトがあります。その1本ずつが健康なのか、どこか悪いところがあるのか——それを同じものさしで見るのが、構成プロジェクト健全性評価シートです。
「うちのPJは順調です」という報告を集めても、プログラム全体の状態はわかりません。順調の基準がPMごとに違うからです。この記事では、7つの観点を5段階で評価し、PJ同士を比べられるようにする方法を紹介します。
■ 背景・よくある課題
よくある状態 | なぜ起きるか | その結果 |
|---|---|---|
全PJが「青」と報告してくる | 判定の基準がない | 問題が表に出るのは手遅れになってから |
PMによって「順調」の意味が違う | 経験や性格で基準が変わる | PJ同士を比べられない |
進捗(日程)しか見ていない | 日程がいちばん目に見えやすい | 要員やステークホルダーの問題を見逃す |
合計点や平均点で判断する | 1つの数字にまとめたくなる | 1つだけ致命的に悪い観点が埋もれる |
評価が「成績表」になる | PMの評価に使われている | 低い点をつけなくなり、シートが機能しなくなる |
最後の項目が、このシートの成否を分けます。健全性評価は、PMを評価するためのものではありません。どこに支援が必要かを見つけるためのものです。ここを取りちがえると、全PJが「4」か「5」しか報告しなくなります。
■ 7つの観点
評価するのは次の7つです。PjMのプロジェクト評価に「ステークホルダー」と「依存」を加えたものだと考えてください。
観点 | 見ること | 点が下がるサイン |
|---|---|---|
進捗 | 計画に対する遅れ | マイルストーンの遅れ、未完了タスクの増加 |
コスト | 計画に対する超過見込み | EACの上ぶれ、予備費の使用 |
品質 | 成果物の完成度 | 不具合の件数、レビュー指摘の積み残し |
要員 | 必要な人がそろっているか | キーパーソンの離脱、稼働率の超過、採用の未充足 |
スコープ | やることの範囲が固まっているか | 要件の変更が続く、決まらない仕様 |
ステークホルダー | 業務部門の協力が得られているか | レビューの遅れ、会議の欠席、反対意見 |
依存 | 他PJとのつながりが守られているか | 依存先の遅れ、仕様の凍結が遅れる |
「ステークホルダー」と「依存」を加える理由は、プログラムではこの2つがPJの生死を分けるからです。PJ単体では、どちらもPMの力ではどうにもならない領域です。だから点が低ければ、PgMが動くべきサインになります。
■ 5段階の判定基準
点 | 状態 | 意味 | 必要な対応 |
|---|---|---|---|
5 | 問題なし | 計画どおり、または計画より良い | なし |
4 | 軽微 | ずれはあるがPJ内で吸収できる | PMが対応。報告のみ |
3 | 注意 | このままだと2に落ちる | 対応策を推進会議で共有 |
2 | 要対応 | PJ内では解決できない | PgMが支援。運営委員会へ報告 |
1 | 重大 | PJの継続そのものが危うい | 運営委員会で中断・再計画を審議 |
総合判定は、もっとも低い観点の点数で決めます。平均ではありません。7つのうち6つが5でも、1つが2なら、そのPJの総合は2です。
平均にしない理由は簡単です。要員が2(キーパーソンが抜けた)というPJは、他がどれだけよくても止まるからです。いちばん弱いところが、そのPJの実力です。
■ 記入例:加美乃フーズ「生産・供給改革プログラム」
食品メーカー加美乃フーズ(年商185億円・工場3か所)が進める生産・供給改革プログラム(2024年1月〜2026年6月、承認枠5億2,000万円、構成PJ4本)の、2025年9月時点の評価です。

4本とも、弱いところがまったく違います。これを平均点で見ると、C2は3.0、C4は2.9とほぼ同じになってしまい、打つべき手がまったく違うことが見えなくなります。
各PJの読み方と、打つ手
PJ | 総合 | 弱い観点 | 状況 | PgMが打つ手 |
|---|---|---|---|---|
C1 生産管理システム刷新 | 3 | 要員 3 | 2025年2月に全3工場で稼働済み。保守要員が固まっていない | 運用部門への引き継ぎ計画を10月までに確定させる |
C2 需給計画高度化 | 2 | 要員 2/依存 2 | 生産管理の業務知識をもつ社内要員が4名しかおらず、C1の保守と取り合いになっている | C1の保守を外部委託に切り替え、社内4名をC2に集中させる |
C3 原価管理刷新 | 3 | 品質 3 | 原価計算ロジックのテストで想定外の差異が出ている | PJ内で対応可能。推進会議で進み具合を確認するのみ |
C4 配送最適化 | 2 | 進捗 2/スコープ 2/ステークホルダー 2 | 配送センターの業務要件が固まらず、着手から4か月で設計が終わらない | 物流部長を巻き込み、要件を11月末で凍結する合意をとる |
C2とC4はどちらも総合2ですが、打つ手はまったく違います。C2は要員の取り合い——これはPgMにしか解けません。C4は業務部門が決めてくれない——これも部門長を動かせるPgMの仕事です。
C3は品質3ですが、PJ内で対応できる範囲です。PgMは手を出さず、見守ります。手を出さない判断も、このシートがあるからできます。
■ テンプレートの項目
1本のPJにつき1枚のシートを作ります。項目は次のとおりです。
# | 項目 | 書くこと |
|---|---|---|
1 | PJ名・PM名・評価日 | 基本情報 |
2 | 7観点の点数 | 各1〜5 |
3 | 総合判定 | 最低点。自動計算にしておく |
4 | 先月からの変化 | 点が動いた観点と、その理由 |
5 | 3以下の観点の理由 | なぜその点なのかを2〜3行で |
6 | PM自身が打つ手 | 自分の裁量でやること |
7 | PgMに求める支援 | 自分では解けないこと。ここが空欄なら2以下はつけない |
8 | 期限 | いつまでに支援が必要か |
7の「PgMに求める支援」が、この評価シートの心臓部です。2以下をつけるということは、PJ内では解けないと宣言することです。ならば、何をしてほしいのかを必ず書く。逆にいえば、書けないなら3以上のはずです。
■ 運用ルール
タイミング | やること | 誰が |
|---|---|---|
毎月末 | 各PMが自分のPJのシートを記入する(15分以内で終わる分量にする) | 各PM |
翌月第3営業日 | 4本を1枚に並べ、変化した観点を洗い出す | PMO |
翌月の推進会議 | 2以下の観点について、支援の内容と期限を決める | PgM・PM |
月次報告 | 総合判定と、2以下の観点を運営委員会へ報告する | PgM |
四半期 | 判定基準そのものを見直す。点のつけ方がゆるくなっていないか確認する | PgM・PMO |
運用で一番大事なのは、低い点をつけたPMを責めないことです。加美乃フーズでは、2以下がついた観点について推進会議で必ず支援策を1つ決める、というルールにしています。低い点をつけると支援が来る。この経験を1回すれば、次から正直な点がつくようになります。
逆に「なぜ2なんだ」と問い詰めると、翌月からすべて4になります。シートが機能しなくなるのは、たいてい1回の会議での一言がきっかけです。
■ 活用シーン
支援の優先順位を決める:2以下の観点が多いPJから手をつけます。
要員の融通を判断する:要員の点が5のPJから2のPJへ、という判断ができます。
ステージゲートの入力:健全性の推移が、次に進むかどうかの判断材料になります。
PMの交代を考えるとき:シートの推移を見れば、PJの構造的な問題か、PMの力量の問題かを切り分けやすくなります。
新任PgMの状況把握:着任時に過去6か月分を読めば、全PJの弱点が1時間でつかめます。
■ よくある失敗と直し方
失敗 | 何が起きるか | 直し方 |
|---|---|---|
合計点や平均点で判断する | 致命的に悪い観点が埋もれる | 総合は最低点で決める。自動計算にする |
PMの人事評価に使う | 低い点がつかなくなる | 評価には使わないと明言する。支援のための道具だと繰り返し伝える |
低い点を問い詰める | 翌月から全部4になる | 2以下には必ず支援策を1つ決める運用にする |
観点が多すぎる | 記入に時間がかかり、形だけになる | 7観点にしぼる。記入は15分以内で終わる分量にする |
判定基準が文書化されていない | PMごとに基準が変わる | 5段階の基準を1枚にまとめ、PM着任時に読み合わせる |
支援欄が空欄のまま2をつける | PgMが何をすればいいかわからない | 支援欄が空欄なら2以下をつけられないルールにする |
■ 導入効果
項目 | 導入前 | 導入後 |
|---|---|---|
「順調」以外の報告があったPJ | 4本中0〜1本 | 4本中2〜3本 |
問題を認識してから支援が始まるまで | 平均7週間 | 平均2週間 |
PgMが支援に動いた件数 | 四半期に1〜2件 | 四半期に6〜8件 |
要員の融通が成立した件数 | 年1件 | 年5件 |
シートの記入にかかる時間 | — | PM1人あたり月12分 |
「順調以外」の報告が増えたのは、悪くなったからではありません。見えるようになったからです。それが健全性評価の目的です。
■ まとめ
構成プロジェクト健全性評価シートは、全PJを同じものさしで見るための道具です。
観点は7つ。進捗・コスト・品質・要員・スコープ・ステークホルダー・依存です。後ろの2つがプログラム特有です。
総合判定は最低点で決めます。平均にすると、致命的な観点が埋もれます。
2以下をつけるときは「PgMに求める支援」を必ず書きます。書けないなら3以上です。
PMの人事評価には使いません。低い点に支援が返ってくる経験を1回作ると、正直な点がつくようになります。
次回は、できあがったしくみを現場へ広げていくための「移行・展開計画表(ロールアウト計画)」のテンプレートを紹介します。