体制図とRACIチャート
プロジェクトで最も時間を吸い取るのは、作業そのものではなく「これは誰が決めるのか」を確かめる時間です。関係者が10人を超えたあたりから、この確認だけで一日が終わる日が出てきます。
体制図とRACIチャートは、その確認を事前に済ませておくための道具です。どちらも作るのに半日もかかりませんが、効果は最後まで続きます。
■ 体制図に書くべきこと
体制図は、人の並びではなく関係を示す図です。よくあるのは、四角を並べて名前を入れただけの図ですが、それでは判断の役に立ちません。次の要素を入れます。
意思決定の線:誰が誰に報告し、誰が承認するのか
契約の線:どの会社とどの会社が契約しているのか。多重下請けの場合は特に重要
役割名と氏名:「開発チーム」ではなく「開発リーダー ○○」まで書く
兼務の明示:他案件と掛け持ちしている人は、稼働率を添える
窓口:各社・各部門の連絡窓口が誰か
契約の線を書き込んでおくと、指示の出し方を間違えにくくなります。元請けの担当者が二次下請けのメンバーに直接指示を出す、といった事態は、図で見えていれば防ぎやすくなります。
■ RACIチャートで役割を分解する
体制図が「組織の形」を示すのに対し、RACIチャートは「作業ごとの役割」を示します。

4つの記号の意味は次のとおりです。
R(Responsible):実際に手を動かす人。複数いてよい
A(Accountable):結果に説明責任を負う人。承認する人。各行に必ず1人だけ
C(Consulted):事前に意見を聞く人。双方向のやり取りが発生する
I(Informed):結果を知らされる人。一方向でよい
最も重要なのはAの扱いです。Aが2人いる行は、実際には誰も最終判断をしません。判断が必要な場面で双方が相手を見ることになります。逆にAが空欄の行は、決まらないまま止まります。
■ 作るときの進め方
RACIチャートは、PMが一人で書いて配っても機能しません。埋める過程そのものが合意形成だからです。
主要な作業を10〜20行ほど洗い出す(WBSの上位レベルが使える)
関係者を列に並べる
まずPMが草案を埋める
関係者を集めて読み合わせ、認識の違う箇所を議論する
合意した内容を確定し、全員が見られる場所に置く
4の読み合わせで必ず食い違いが出ます。「それは私が決めると思っていた」「うちは相談されると聞いていない」。この食い違いを、作業が始まる前に洗い出せることが最大の価値です。プロジェクト中盤で同じ食い違いが表面化すれば、手戻りになります。
■ チャートが示す危険信号
埋め終わったチャートは、そのまま体制の診断結果になります。
Aが1つの列に集中している:その人がボトルネックになる。休暇や出張で全体が止まる
Cが多すぎる行がある:合意形成に時間がかかる。本当に全員の事前相談が必要かを見直す
RもAもない列がある:その人はなぜこのプロジェクトにいるのか。役割の再定義が必要
IばかりでCがない部門がある:終盤に反対される可能性がある。事前相談の対象に入れるべきか検討する
■ 運用で気をつけること
作った後に形骸化させないための工夫がいくつかあります。
まず、変更があったら必ず更新します。人が入れ替わったとき、役割が移ったときに直さないと、数か月で実態と合わなくなります。古い体制図は、ないよりも危険です。
次に、置き場所を一つに決めます。メールに添付して配ると、各自の手元で版が分かれます。共有ドキュメントに1枚だけ置き、そこを見るというルールにします。
そして、メンバーの入場時に必ず見せます。新しく参加した人が最初に知りたいのは「誰に聞けばいいか」です。体制図とRACIチャートがあれば、その質問に一度で答えられます。
■ チェックリスト
体制図に契約関係の線が入っているか
兼務者の稼働率が明示されているか
RACIの各行にAが1人だけいるか
Aが特定の人に集中しすぎていないか
関係者と読み合わせて合意したか
置き場所を一つに決めているか
役割分担は、口頭で確認した時点では決まっていません。書いて、見せて、違和感が出たところを直して、はじめて共有されます。体制図とRACIチャートは、その過程を残すための形式だと考えると、作る意味が見えてきます。