未来PM
PM基本知識

コスト管理とEVM(出来高管理)

「進捗は80%です」「予算は7割使いました」。この2つを別々に聞いている限り、プロジェクトが健全なのかどうかは判断できません。8割進んで7割使っているのか、2割しか進んでいないのに7割使ったのかで、意味はまったく違うからです。

EVM(Earned Value Management/出来高管理)は、進捗とコストを同じ物差しに載せて比較するための手法です。進捗管理が「いまどこまで来たか」を、コスト管理が「いくら使ったか」を別々に扱うのに対し、EVMはこの2つを一本の線の上で突き合わせます。


■ 3つの基本値

EVMで扱う値は、まず次の3つだけです。

  • PV(Planned Value/計画価値):今日までに終わっているはずだった作業量を、金額または比率で表したもの

  • EV(Earned Value/出来高):実際に終わった作業量を、同じ単位で表したもの

  • AC(Actual Cost/実コスト):その作業に実際にかかった費用

ポイントは、EVが「使った金額」ではなく「終わらせた仕事の価値」だという点です。予算100万円の作業が半分終わっていれば、いくら使ったかに関係なくEVは50万円になります。ここを取り違えると、EVMは単なる支出管理表になってしまいます。

PV・EV・ACの3本の線を示したEVMのS字カーブ


■ 4つの指標の読み方

3つの値が揃えば、そこから4つの指標が導けます。計算式はどれも単純です。

SV・CV・SPI・CPIの計算式と読み方を示した図

実務で最もよく使うのはCPI(コスト効率指数)です。CPIが0.80なら、1円投じるごとに0.80円分しか進んでいないことになります。これは「このペースが続けば、最終的にいくらかかるか」の予測に直結します。


■ 完成時の見通しを立てる

EVMが進捗管理と決定的に違うのは、この先いくらかかるかを予測できる点です。

  • BAC(完成時総予算):当初の予算総額

  • EAC(完成時総コスト見積り):このままのペースで進んだ場合の最終コスト。もっとも単純な計算は EAC = BAC ÷ CPI

  • ETC(残作業コスト見積り):EAC − AC。これから先に必要な額

  • VAC(完成時差異):BAC − EAC。マイナスなら予算超過の見込み

予算1億円のプロジェクトでCPIが0.80なら、EACは1億2,500万円。つまり、この時点ですでに2,500万円の超過が見えていることになります。プロジェクトの序盤でこれが分かるのが、EVMの最大の価値です。「終盤になって初めて足りないと分かる」状態を防げます。


■ EVをどう測るか ―― 最大の難所

EVMが機能するかどうかは、ほぼこの一点で決まります。「何%終わったか」を担当者の感覚で入れてしまうと、指標は数字の形をした主観になります。判定規則をあらかじめ決めておきます。

  • 0/100ルール:完了したら100%、それ以外は0%。最も厳格で、成果物単位の作業に向く

  • 50/50ルール:着手したら50%、完了で100%。期間の長い作業で、進み具合をある程度反映できる

  • マイルストーン法:作業の中に中間到達点を置き、通過するたびに決められた比率を計上する

どれが優れているという話ではなく、作業の性質に合わせて選びます。重要なのは、誰が見ても同じ数字になる規則であることです。


■ 導入時につまずくところ

  • WBSと予算が対応していない:EVは作業単位に予算が割り振られていないと計算できません。WBSの各ワークパッケージに予算を紐づけるところから始まります

  • 全部の作業に適用しようとする:管理コストが見合いません。金額の大きい作業、期間の長い作業に絞っても十分に機能します

  • 月次でしか更新しない:異常に気づくのが遅れます。せめて主要作業は週次で拾います


■ SPIの限界

SPIには弱点があります。プロジェクトの終盤では、遅れていてもEVがPVに近づいていくため、SPIは自然に1.0へ向かいます。終盤のSPIは、遅れの大きさを表さなくなるのです。

このため、スケジュールの遅れはSPIだけで判断せず、クリティカルパス上の作業がどうなっているかと併せて見ます。EVMは万能な計器ではなく、コスト面に強い計器だと理解しておくのが適切です。


■ 向くプロジェクト、向かないプロジェクト

EVMが効くのは、成果物と作業量があらかじめ見通せるプロジェクトです。大規模なシステム構築や建設のように、WBSが安定していて期間が長いものほど価値があります。

逆に、要件が動きながら進む開発や、数週間で終わる小規模案件では、EVMの整備コストが見合わないことが多くなります。その場合は、CPIだけを簡易に追う、主要な数本の作業に限って適用する、といった部分導入で十分です。手法を全部入れることが目的ではありません。


■ 報告での使い方

経営層への報告では、3つの値の推移グラフと、CPI・EACの2つがあれば足ります。

「遅れています、頑張ります」という報告と、「CPIが0.80で推移しており、このままではEACが1億2,500万円、2,500万円の超過見込みです。スコープを削るか、予算を追加するかの判断をお願いします」という報告とでは、相手が取れる行動がまったく違います。EVMは、PMが判断を仰ぐための共通言語として機能します。


■ チェックリスト

  • WBSのワークパッケージに予算が割り振られているか

  • EVの判定規則(0/100ルールなど)を決めたか

  • 進捗率が担当者の自己申告になっていないか

  • CPIとEACを毎月更新しているか

  • SPIだけでスケジュールを判断していないか

EVMは難しい手法だと思われがちですが、計算式そのものは引き算と割り算だけです。難しいのは計算ではなく、EVを正しく測れる状態を作ること ―― つまりWBSと予算の整備のほうです。逆に言えば、そこさえ整っていれば、あとは毎月3つの数字を拾うだけで見通しが立ちます。

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