「3か月遅れ」の見通しから、期日を守った物流企業の事例
※ この事例は、プロジェクトマネジメントの学習を目的に作成した架空の事例です。登場する企業・人物・数値はすべて創作であり、実在のものとは関係ありません。
■ この事例の概要
中堅物流のサンフィールド運輸が、配車・運行管理システムを刷新した10か月です。2025年1月末の時点で累積32営業日の遅れが出ており、このままのペースなら稼働は3か月後ろにずれて9月という見通しでした。
納期目標の6月2日は、繁忙期(6月中旬から)の直前という理由で動かせません。そこで、遅れの中身を要因ごとに分解し、待ち時間を減らす打ち手と、バッファの置き場所の変更を行いました。
期間 | 費用 | 品質 |
|---|---|---|
2025年6月2日稼働(目標どおり) | 1億4,256万円(承認枠の96.3%) | 受入テストの重大不具合0件 |
■ サンフィールド運輸という会社と、このプロジェクト
項目 | 内容 |
|---|---|
業界 | 物流(一般貨物運送・地域配送) |
会社 | サンフィールド運輸株式会社(架空)/年商96億円/従業員420名 |
規模 | 配送拠点14、車両318台、荷主企業 約240社 |
プロジェクト名 | 配車・運行管理システム刷新 |
背景 | 配車はベテラン担当者の経験に依存し、拠点ごとにやり方が違った。運行実績は紙の日報を翌日入力しており、実態把握が1日遅れていた |
期間 | 2024年9月2日〜2025年6月2日稼働(10か月) |
体制 | 社内6名+ベンダー10名(ピーク時16名) |
総工数 | 当初156人月 → 実績162人月 |
平均単価 | 88万円/人月 |
当初契約額 | 1億3,728万円 |
承認予算枠 | 1億4,800万円(うち予備費1,072万円) |
新規開発規模 | 76KStep |
納期目標の背景は、次のとおりです。
時期 | 業務の状況 | 切り替えの可否 |
|---|---|---|
6月中旬〜8月 | 夏季の飲料・冷凍品で配送量が年間ピーク(平常比1.4倍) | 不可 |
12月 | 年末需要。拠点は連日フル稼働 | 不可 |
3月 | 決算期の出荷集中 | 不可 |
5月下旬〜6月上旬 | 連休明けで比較的落ち着く | ここしかない |
6月2日を逃すと、次に切り替えられるのは9月中旬です。3か月の遅れは、実質的には「3か月半の遅れ」を意味していました。
■ 計画(WBSとマイルストーン)
WBS | 作業 | 当初(人月) | 実績(人月) |
|---|---|---|---|
1 | プロジェクト管理 | 16 | 17 |
1.1 | 計画・統制 | 10 | 11 |
1.2 | 品質管理 | 6 | 6 |
2 | 要件定義 | 22 | 25 |
2.1 | 配車業務 | 12 | 14 |
2.2 | 運行実績 | 7 | 8 |
2.3 | 非機能要件 | 3 | 3 |
3 | 設計 | 34 | 34 |
3.1 | 基本設計 | 18 | 18 |
3.2 | 詳細設計 | 16 | 16 |
4 | 開発 | 52 | 52 |
4.1 | 配車最適化 | 24 | 24 |
4.2 | 運行実績収集 | 16 | 16 |
4.3 | 既存連携(会計・請求) | 12 | 12 |
5 | テスト | 24 | 24 |
5.1 | 単体・結合テスト | 11 | 11 |
5.2 | 総合テスト | 9 | 9 |
5.3 | 受入テスト支援 | 4 | 4 |
6 | 移行・展開 | 8 | 10 |
6.1 | データ移行 | 5 | 7 |
6.2 | 拠点展開 | 3 | 3 |
— | 合計 | 156 | 162 |
# | マイルストーン | 当初計画 | 再計画(2月) | 実績 |
|---|---|---|---|---|
M1 | 要件確定 | 2024/11/29 | — | 2024/12/20 |
M2 | 基本設計完了 | 2025/1/31 | 2025/2/21 | 2025/2/21 |
M3 | 詳細設計完了 | 2025/2/28 | 2025/3/14 | 2025/3/13 |
M4 | 開発完了 | 2025/4/4 | 2025/4/11 | 2025/4/10 |
M5 | 総合テスト完了 | 2025/5/16 | 2025/5/16 | 2025/5/15 |
M6 | 本番稼働 | 2025/6/2 | 2025/6/2 | 2025/6/2 |
■ 1月末:3か月遅れという見通しが出た
EVMの推移です(単位:万円、累計)。
月末 | PV | EV | AC | SPI | CPI |
|---|---|---|---|---|---|
2024/9月 | 730 | 720 | 730 | 0.99 | 0.99 |
10月 | 1,970 | 1,910 | 1,950 | 0.97 | 0.98 |
11月 | 3,530 | 3,250 | 3,350 | 0.92 | 0.97 |
12月 | 5,710 | 4,910 | 5,120 | 0.86 | 0.96 |
2025/1月 | 8,200 | 6,400 | 6,810 | 0.78 | 0.94 |
2月 | 10,280 | 8,840 | 9,210 | 0.86 | 0.96 |
3月 | 11,840 | 10,890 | 11,230 | 0.92 | 0.97 |
4月 | 12,980 | 12,330 | 12,710 | 0.95 | 0.97 |
5月 | 13,820 | 13,540 | 13,820 | 0.98 | 0.98 |
6月 | 14,256 | 14,256 | 14,256 | 1.00 | 1.00 |
1月末のSPIは0.78。残り工程が同じペースで進むと仮定した場合の予測完了日は、次の計算になります。
項目 | 計算 | 結果 |
|---|---|---|
残作業の計画期間 | 2月3日〜6月2日 | 86営業日 |
SPI 0.78で進んだ場合 | 86÷0.78 | 110営業日 |
予測完了日 | 2月3日+110営業日 | 9月上旬(約3か月遅れ) |
■ 遅れの中身を分解する
「3か月遅れます」という報告だけでは、何をすればいいか分かりません。そこで、32営業日の遅れを1日ずつ要因に割り当てました。作業は、週次の進捗記録と課題管理表を突き合わせて行い、2日かかっています。

上位2つの中身は次のとおりです。
要因 | 具体的に何が起きていたか | 性質 |
|---|---|---|
荷主マスタの整備待ち(11日) | 240社の荷主情報(請求条件、指定時間、車両制限)を営業部が整備する予定だったが、通常業務が優先され着手できなかった | 待ち |
設計レビューの差し戻し(8日) | 基本設計書のレビューで差し戻しが多発。42%が1回で通らず、平均2.4回のやり直し | 手戻り |
拠点ヒアリングの日程調整(6日) | 14拠点を個別訪問する計画だったが、拠点長の都合がつかず日程が後ろにずれた | 待ち |
要員の立ち上がり遅れ(4日) | 11月に増員した2名が業務知識を得るのに時間がかかった | 能力 |
重要なのは「待ち」が17日(53%)を占めていたことです。待ちは、要員を増やしても減りません。ここが打ち手の選択を決めました。
■ 打った4つの手
# | 打ち手 | ねらい | 効果(実測) |
|---|---|---|---|
1 | 荷主マスタ整備をクリティカルパスから外す | 240社を一度に整備せず、稼働時に必要な上位80社を先に整備。残りは稼働後に順次登録する方式へ変更 | 待ち時間を11日→2日に短縮 |
2 | レビュー前チェックリストの導入 | 差し戻しの理由を分類し、頻出20項目をチェックリスト化。提出前に作成者が自己確認 | 差し戻し率 42%→12% |
3 | 拠点ヒアリングの集約 | 14拠点の個別訪問をやめ、代表3拠点に訪問+残り11拠点はオンラインで同時開催 | 所要 6週間→2週間 |
4 | バッファの置き直し | 最後にまとめていた20営業日を、工程の切れ目に分散 | 工程ごとに遅れを吸収 |
1つ目が最も効きました。「全部そろっていないと動けない」という前提を疑った結果です。配送件数の上位80社で全体の73%をカバーできることが分かり、残りは稼働後の登録で業務が回ると判断しました。
荷主の区分 | 社数 | 配送件数に占める割合 | マスタ整備のタイミング |
|---|---|---|---|
上位(月20件以上) | 80社 | 73% | 稼働前(2月〜3月) |
中位(月5〜19件) | 94社 | 21% | 稼働後1か月以内 |
下位(月4件以下) | 66社 | 6% | 受注が発生した時点で登録 |
合計 | 240社 | 100% | — |
■ バッファの置き直し

工程の切れ目 | 置いたバッファ | 実際に使った日数 | そのときの判断 |
|---|---|---|---|
基本設計の後 | 5営業日 | 3日 | 詳細設計の体制を1名増やし、後工程への持ち越しを防いだ |
開発の後 | 8営業日 | 1日 | 余裕があると分かったため、総合テストの開始を1日前倒し |
総合テストの後 | 7営業日 | 0日 | 未使用。移行リハーサルを1回追加する時間に充当 |
合計 | 20営業日 | 4日 | — |
バッファの総量は変えていません。変えたのは置き場所だけです。それでも効果がありました。最後にまとめて置くと、工程の切れ目で「まだ余裕がある」と見えてしまい、手を打つ判断が遅れるためです。
■ 結果
軸 | 指標 | 目標 | 実績 | 判定 |
|---|---|---|---|---|
D | 本番稼働日 | 2025年6月2日 | 2025年6月2日 | 達成 |
C | 総費用 | 1億4,800万円以内 | 1億4,256万円(96.3%) | 達成 |
Q | 受入テストの重大不具合 | 0件 | 0件 | 達成 |
S | 荷主マスタの登録 | 240社(稼働時) | 80社(稼働時)/240社(7月末) | 時期変更 |
SPIの回復の様子は、次のとおりです。
時点 | SPI | その月に効いた打ち手 |
|---|---|---|
1月末 | 0.78 | —(対策の検討中) |
2月末 | 0.86 | マスタ整備の切り離し、チェックリスト導入 |
3月末 | 0.92 | ヒアリング集約の完了、差し戻し率の改善が効き始める |
4月末 | 0.95 | 開発が計画どおりに進行 |
5月末 | 0.98 | 総合テストを1日前倒しで完了 |
■ このプロジェクトで使っていた管理帳票
課題は全期間で96件。遅れに関係する6件です。
No | 発生日 | 区分 | 内容 | 担当 | 期限 | 完了日 |
|---|---|---|---|---|---|---|
C-019 | 10/8 | 体制 | 営業部で荷主マスタ整備の担当が決まらない | PM/笹本 | 10/25 | 2/7 |
C-027 | 10/22 | 品質 | 基本設計書の差し戻しが多い(4件中3件) | ベンダー/坂上 | 11/8 | 2/14 |
C-034 | 11/5 | 体制 | 拠点長の日程が取れず、ヒアリングが後ろ倒し | 運行部/西尾 | 11/22 | 3/7 |
C-052 | 1/15 | 計画 | このままのペースでは6月稼働に間に合わない | PM/笹本 | 1/31 | 1/30 |
C-058 | 2/5 | 業務 | 稼働時に必要な荷主の範囲が決まっていない | 営業/高梨 | 2/14 | 2/13 |
C-071 | 3/19 | 移行 | 車両マスタの型式コードが旧システムで統一されていない | 情シス/古賀 | 4/4 | 4/2 |
C-019・C-027・C-034は、いずれも10〜11月に発生しながら、完了が2〜3月にずれています。この3件の滞留が、そのまま32営業日の遅れの78%(25日)を占めていました。課題管理表を見れば、1月を待たずに気づけたはずです。
リスク管理表では、この状況に関わる4件を登録していました。
No | リスク | 影響度 | 発生確率 | 対応方針 | 結果 |
|---|---|---|---|---|---|
R-04 | 繁忙期に稼働が間に合わない | 大 | 中 | 月次でSPIを確認し、0.85を下回ったら再計画 | 顕在化(12月にSPI 0.86) |
R-08 | 営業部の協力が得られずマスタが整備されない | 大 | 高 | 担当者と期限を営業部長と合意する | 顕在化(10月) |
R-12 | 拠点ごとの運用差が大きく仕様がまとまらない | 中 | 高 | 代表3拠点の運用を標準とし、差分は例外扱い | 対応済 |
R-17 | 繁忙期に切り替えられず1年待ちになる | 大 | 低 | 6月を逃した場合の代替日(9月中旬)を事前に確認 | 発生せず |
R-04の対応方針に書いた「SPIが0.85を下回ったら再計画」という基準が機能しました。12月末に0.86、1月末に0.78。基準を決めていたので、1月の定例でそのまま再計画の議論に入れています。
再計画を決めた1月第4週のTODOです。
No | 内容 | 担当 | 期限 | 状態 |
|---|---|---|---|---|
T-198 | 遅延32日の要因分解を行う | 笹本 | 1/24 | 完了 |
T-199 | 荷主の配送件数を集計し、上位社数を出す | 高梨 | 1/28 | 完了 |
T-200 | 設計書の差し戻し理由を分類する | 坂上 | 1/27 | 完了 |
T-201 | 14拠点のオンライン同時開催の可否を確認 | 西尾 | 1/29 | 完了 |
T-202 | 再計画案を役員会に提出 | 笹本 | 1/31 | 完了 |
■ 振り返り:効いたこと、効かなかったこと
効いたこと | なぜ効いたか |
|---|---|
遅れを1日ずつ要因に割り当てた | 「待ち」が53%と分かり、要員追加という誤った打ち手を避けられた |
「全部そろえる」をやめた | 荷主240社を80社に絞ったことで、クリティカルパスから11日分の待ちが消えた |
差し戻し理由を分類した | 指摘の内容に偏りがあり、上位20項目のチェックリストで42%→12%に下がった |
SPIの再計画基準を事前に決めていた | 「0.85を下回ったら」という線があったため、議論が早く始まった |
効かなかったこと | 何が足りなかったか |
|---|---|
11月の増員2名 | 業務知識の習得に時間がかかり、立ち上がりまでに4日の遅れを生んだ。遅れの原因が「待ち」だったため、そもそも打ち手として合っていなかった |
課題C-019の期限延長を繰り返したこと | 10月25日の期限を4回延長した。延長のたびに理由は書いていたが、影響日数を書いていなかったため、深刻さが伝わらなかった |
月次のSPI確認 | 月1回では気づくのが遅い。週次で見ていれば、11月の時点(SPI 0.92)で手を打てた |
■ 自分の現場で使うなら
遅れは日数を要因に割り当ててから打ち手を考える:待ち・手戻り・能力のどれかで、効く打ち手が違う
課題の期限を延長するときは、影響日数を書く:「4/25→5/9(全体に+3日)」と書けば、放置されにくい
バッファは工程の切れ目に分けて置く:総量が同じでも、判断が早くなる
再計画に入る基準を、数字で先に決めておく:SPI 0.85など。基準があると議論が早い
2つ目は小さなことですが、効果があります。このプロジェクトでも、C-019の期限延長に影響日数を添えていれば、11月の時点で営業部長を巻き込む判断ができたはずです。