メンバーから「辞めようと思っています」と言われたとき
夕方、メンバーから「少しお時間いいですか」と声をかけられます。会議室に入ると、こう切り出されます。
「実は、辞めようと思っています」
頭の中で計算が始まります。あの機能の担当は誰に。引き継ぎにどれだけかかる。顧客への影響は。ただ、その計算を口に出すのは、いま話している相手にとって一番つらいことです。

■ その場では、聞くことに徹する
この場面で一番やりがちなのが、その場で引き止めることです。「待って、何が不満なの」「条件なら相談できるよ」。善意から出る言葉ですが、たいてい逆効果になります。
相手は、何週間も悩んでから今日この場に来ています。その決断を5分で覆そうとすれば、「ちゃんと聞いてもらえなかった」という記憶だけが残ります。
やることは3つだけです。
最後まで聞く(途中で理由を評価しない)
「話してくれてありがとう」と伝える
「少し考えたいので、また改めて話させてほしい」と言って、その日は終える
結論をその場で出さないことが、次の会話の余地を残します。
■ 理由は、そのまま受け取る
退職の理由として語られることと、本当の理由が違うことはあります。ただ、それを掘り返そうとしないでください。
言われたこと | やりがちな返し | そのとき起きること |
|---|---|---|
別のことがやりたい | ここでもできるよ | 否定されたと受け取られる |
体力的にきつい | みんな同じだよ | 相談したことを後悔する |
家庭の事情で | 詳しく教えてもらえる? | 踏み込みすぎになる |
語られた理由を、そのまま受け取る。それで十分です。
■ 当日中に、上長へ伝える
この情報を自分だけで抱えないでください。判断できることが限られますし、あとで「なぜ早く言わなかった」となります。
ただし、本人に先に断ります。
「この件、私の上長には今日のうちに伝えます。それ以外には、まだ言いません」
誰に伝わり、誰に伝わらないかが分かるだけで、本人の不安はかなり減ります。逆に、いつのまにかチーム中に知れ渡っている状態は、本人にとっても残りの期間を過ごしにくくします。
■ 引き止めるかどうか
2〜3日おいて、もう一度話します。ここで確認するのは、変えられることがあるかどうかです。
理由の種類 | 変えられる可能性 |
|---|---|
担当業務の内容、役割 | ある。配置や範囲は相談できる |
働き方、負荷 | ある。ただし実行できる約束だけを提示する |
会社の方向性、待遇制度 | 低い。その場の言葉で変えられない |
家庭・健康・進路の事情 | 変えられない。応援する側に回る |
変えられないことに対して引き止めるのは、相手の時間を奪うだけです。そのときは、気持ちよく送り出す側に切り替えるほうが、結果的にお互いのためになります。
■ 引き継ぎは、チームを直す機会
退職が決まったら、引き継ぎの設計に入ります。ここで多くのPMがやってしまうのが、後任を決めてから考えることです。順番が逆です。
まず、その人がやっていた作業を全部書き出す(本人に書いてもらう)
そのうち、その人しか知らないものに印をつける
印がついたものから、手順を文書にする
最後に、誰が引き取るかを決める
2番目で出てくるリストが、そのままチームの弱点です。退職は残念な出来事ですが、この弱点が見えるのは、このタイミングだけだったりします。
■ 起きてからでは遅いこと
冒頭に書いたとおり、引き止められるかどうかは、この日ではなく、それまでの数か月で決まっています。日々できることは地味です。
1対1で話す時間を、月に1回でも作る
「困っていることはない?」ではなく「今の仕事、どう?」と聞く
成果が出たときに、その場で具体的に伝える
これで全部の退職を防げるわけではありません。ただ、相談する前に去ってしまうことは減ります。
■ まとめ
「辞めようと思っています」と言われたら、その場で引き止めない。最後まで聞き、ありがとうと伝え、日を改める。そして当日中に上長へ。
いまチームに、その人しか知らない作業がいくつあるか、思い浮かべてみてください。思い当たるなら、退職の話が出る前に手順を書いてもらう価値があります。