「あれ、ついでに入れといて」と言われたとき
会議室を出た廊下で、顧客の担当者が思い出したように言います。
「あ、そうだ。あの画面に部署名も出せますよね。ついでに入れといてください」
5秒の会話です。その場で「分かりました」と言ってしまいそうになります。実際、その項目を足すだけなら大した作業ではありません。問題は、これが1件では終わらないことです。

■ なぜ断りにくいのか
「ついでに」の依頼が厄介なのは、ひとつずつが本当に小さいからです。断る理由を探すほうが難しい。しかも、頼んでいる側に悪気はありません。開発の手間が見えていないだけです。
そして、こういう依頼は記録に残りません。会議室の外で出た話は議事録に載らず、メールにも残らない。気づいたときには「いつの間にか作業が増えている」状態になっています。
■ その場での返し方
ここでの目標は、断ることではありません。記録に乗せることです。次の一言で足ります。
「いいですね。忘れないように、あとでメールで送っていただけますか」
相手を拒んでいません。前向きに受けています。ただ、口頭から文字に移しています。
相手が「メールするほどのことでもないよ」と言う場合は、自分から送ります。
「では私のほうでメモして、今日の依頼一覧に追加しておきます」
どちらでも構いません。大事なのは、その依頼に番号が付くことです。
■ 数えるための仕組み
依頼を1件ずつ判断しようとすると、必ず押し切られます。効くのは、合計を見せられる状態を作っておくことです。
用意するもの | 中身 |
|---|---|
追加依頼の一覧表 | 日付/依頼者/内容/見積もり(人日)/状態 |
見積もりの目安 | 細かく計算しない。0.5/1/3/5人日の4段階で十分 |
定例での報告枠 | 毎回「今月の追加依頼と合計」を1枚だけ出す |
この一覧があると、会話が変わります。「その依頼は受けられません」ではなく、「今月これで12件目、合計8人日です。どれを優先しますか」と聞けるようになります。
判断を相手に返しているので、対立になりません。それでいて、量は正しく伝わります。
■ 上司や社内から来る場合
「ついでに」は顧客からだけではありません。自社の営業や上司から来ることもあります。このときは、言い方を少し変えます。
相手 | その場で言うこと |
|---|---|
顧客 | メールで送ってください/一覧に追加します |
自社の営業 | いま何人日分たまっているか見てもらえますか |
自分の上司 | 入れる場合、どれを後ろにずらしますか |
3行目が効きます。「やらない」ではなく「何と入れ替えるか」を聞く。予算にも人数にも上限があることを、質問の形で示しています。
■ 受けると決めたときのひと手間
受けること自体は悪くありません。小さな要望に応えることで信頼が生まれる面もあります。ただし、受けるなら1行だけ残してください。
いつ、誰から、何を頼まれたか
どのくらいの作業量と見たか
代わりに何を後ろにずらしたか(ずらさないならその旨)
この記録は、後で誰かを責めるためのものではありません。プロジェクトの終盤に「なぜ遅れたのか」を説明するときに、自分たちを守る材料になります。
■ まとめ
「ついでに」への正しい対応は、断ることではなく数えることです。その場では受け止めて、記録に乗せ、月に一度合計を見せる。
いま進めている案件で、記録に残っていない小さな依頼がいくつあるか、思い出してみてください。3つ以上思い当たるなら、今日から一覧を作る価値があります。