顧客に「そんな話は聞いていない」と言われたとき
進捗報告の会議で、顧客側の課長がこう言います。
「え、その仕様に決まったんですか。そんな話は聞いていないのですが」
3週間前の打ち合わせで合意し、議事録も送っています。手元の資料を開けば証明できます。ただ、その場で議事録を出すのは、たいてい悪手です。

■ なぜ「聞いていない」が起きるのか
図のとおり、伝えたことが相手の組織に届くまでには段階があります。多くの場合、落ちているのは議事録を送る手前ではなく、相手の社内で共有される段階です。
つまり、打ち合わせに出ていた担当者は知っています。知らないのは、その上司や別部署の人です。そして会議で発言するのは、たいてい後者です。
この構造が分かると、対応の優先順位が変わります。
■ その場でやること:証明ではなく、確認
議事録を出して「ここに書いてあります」と言えば、事実としては勝ちます。しかし、そのあとに残るのは気まずさと、相手の面目を潰したという記憶です。
代わりに、こう返します。
つい言ってしまう | 代わりに言う |
|---|---|
議事録に書いてあります | 説明が行き届いていませんでした。今あらためて共有させてください |
◯◯さんは了承されていました | この件、どこまで共有されているか確認させてください |
もう作り始めています | いま手戻りの範囲を確認します。判断は今日の午後までにいただけますか |
左の言い方は、相手に「自分の社内の不備」を突きつけます。右は、同じ事実を伝えながら、相手が動きやすい形にしています。
そして、その場では決着させません。会議の目的は進捗報告であって、この件の決着ではないからです。
■ 会議のあと:24時間以内にやる3つ
経緯を1枚にまとめる:いつ、誰と、何を決めたか。時系列だけ。評価は書かない
選択肢を2つ用意する:このまま進める案と、変更する案。それぞれの影響(期間・費用)を数字で
相手の担当者に先に見せる:課長に出す前に、打ち合わせに出ていた担当者と認識を合わせる
3つ目を飛ばさないでください。担当者を飛び越して上司に説明すると、その担当者は社内で立場を失います。次から協力してもらえなくなります。
■ 次から起きにくくする仕組み
この場面は、記録の丁寧さでは防げません。相手の社内に届いたかを確かめる仕組みが要ります。
やること | 効き方 |
|---|---|
議事録の冒頭に「決まったこと」を3行だけ置く | 本文を読まなくても要点が届く |
重要な決定は、件名に入れて単独メールで送る | 転送されやすくなる |
月1回、決定事項の一覧を送る | 見落としが後から拾える |
相手の上司が出る会議で、決定事項を再確認する | 共有の段階を飛ばせる |
4つ目が一番強いです。月次の報告会があるなら、冒頭の2分を「先月決まったこと」に使ってください。読まれなくても、その場で耳に入ります。
■ 立場を守る、ということ
「言った・言わない」で勝っても、プロジェクトは進みません。目的は、相手を納得させることではなく、合意した内容で前に進むことです。
記録はそのために残します。相手を追い込むためではなく、自分たちが迷わないために。この順番を間違えなければ、記録はちゃんと味方になります。
■ まとめ
「そんな話は聞いていない」と言われたら、議事録を出す前に、どこまで共有されているかを確認する。その場では決めず、24時間以内に選択肢を持っていく。この順番です。
いま進めている案件で、決定事項が相手の社内のどこまで届いているか、一度確かめてみてください。思っているより手前で止まっていることがあります。