本番移行当日のPMの動き方
本番移行の日は、プロジェクトで最も緊張する一日です。うまくいけば誰も気づきませんが、失敗すれば業務が止まります。
この日のPMの仕事は、作業することではありません。時刻と条件を見て、進めるか戻すかを判断することです。

■ 当日に決めることは、当日に決めない
いちばん多い失敗は、切り戻すかどうかを当日その場で相談し始めることです。
深夜、全員が疲れていて、作業は途中。ここで「どうしましょうか」と相談を始めると、判断は必ず遅れます。そして遅れた分だけ、戻すことも難しくなります。
移行計画の段階で、次の3つを文書にして合意しておきます。
決めておくこと | 具体例 |
|---|---|
切り戻しの条件 | 02:00の時点でデータ移行が完了していなければ切り戻す |
判断する人 | ◯◯部長(連絡先・当日の待機場所を明記) |
切り戻しにかかる時間 | バックアップからの復元に90分。業務開始の3時間前が最終期限 |
この3つが書かれていれば、当日は時計を見て条件に当てはめるだけになります。
■ 開始判断(GO / NO GO)を独立した時刻に置く
作業開始の時刻と、開始を判断する時刻は分けます。
たとえば作業開始が21時なら、判断は20時。この1時間で、次を確認します。
必要な人が全員そろっているか
直前の障害・未解決の不具合が残っていないか
連絡先と待機体制が整っているか
バックアップの取得先に空き容量があるか
1つでも欠けていたら、延期という選択肢を選べる状態にしておくことが大事です。延期の判断は、始めてしまってからでは取れません。
■ 手順書は「チェック欄つき」で作る
移行当日の作業は、深夜で判断力が落ちた状態で進みます。そこで効くのが、手順書の作り方です。
手順書に入れる欄 | なぜ必要か |
|---|---|
手順番号と作業内容 | どこまで終わったかを一目で分かるようにする |
実施者・確認者 | 1人で進めず、必ず2人目が確認する |
開始時刻・終了時刻 | 遅れが出たときに、どこで遅れたかが分かる |
想定所要時間 | 遅れているかどうかを、その場で判断できる |
チェック欄 | 飛ばしを防ぐ。口頭の「終わりました」は当てにしない |
とくに想定所要時間は重要です。これがないと「なんとなく押している気がする」という感覚でしか判断できません。
■ 動作確認は、業務側の人にやってもらう
開発側が動作確認をして「問題ありません」と言っても、業務が回るかどうかは分かりません。
移行当日の確認は、実際に使う人に、決めておいた手順で操作してもらいます。
確認するシナリオは、事前に紙で用意しておく(当日その場で考えない)
確認する人を名指しで確保しておく(深夜なら交通手段も手配)
確認が終わったら、その人に「確認しました」と記録に残してもらう
ここを省くと、翌朝に「使ってみたら動かない」が起きます。そのときにはもう戻せません。
■ 連絡の順番と文面を前日に作っておく
開放の連絡も、中止の連絡も、深夜や早朝に出すことになります。そのときに文章を考える余裕はありません。
次の3パターンを、前日までに下書きしておきます。
パターン | 盛り込む内容 |
|---|---|
予定どおり完了 | 利用開始できること、問い合わせ先、初日の注意点 |
遅れて完了 | 何時から使えるか、遅れた理由、業務への影響 |
切り戻した | 現行システムを継続すること、次回の予定、当面の運用 |
送る順番も決めておきます。業務部門の責任者 → 現場の利用者 → 社内関係部署 → 経営層。順番が前後すると、現場が上司から先に聞かされることになります。
■ 初日は、人を厚く置く
移行は、切り替えた瞬間に終わりではありません。むしろ初日の問い合わせ対応が本番です。
問い合わせ窓口を、いつもより厚くする
開発メンバーを、その日は業務現場の近くに置く
問い合わせ内容を記録して、翌日以降の対応に使う
初日に出る問い合わせの多くは、不具合ではなく操作の分からなさです。ここで丁寧に対応できるかどうかで、システムの評価が決まります。
■ PM自身は、作業に入らない
手が足りないと、PMも作業に入りたくなります。しかし当日のPMが作業に没頭すると、全体を見る人がいなくなります。
PMがやることは、次の4つだけです。
手順書の進み具合と時刻を見る
予定より遅れているかを判断する
切り戻しの条件に当てはまっていないか確認する
関係者に状況を伝える
■ まとめ
移行当日にうまくいくかどうかは、当日の頑張りではなく事前にどこまで決めてあるかで決まります。
いま移行を控えている案件があれば、「何時までに、どこまで終わっていなければ戻すのか」が文書になっているかを確認してみてください。書かれていなければ、そこが最初にやることです。