PMを引き継ぐとき・引き渡すとき
PMの交代は、思っているより難しい作業です。「引き継ぎ資料を作って渡す」で済ませると、たいてい数週間後に問題が起きます。
資料に書けることは、プロジェクトの状態の半分以下だからです。残りの半分は、人の事情と、まだ言葉になっていない懸念の中にあります。

■ 受け取る側:最初の3営業日
引き継いだ直後は、分からないことだらけです。すべてを理解しようとすると時間が足りないので、順番を決めます。
1日目:状況を読む
課題管理表 いま何が詰まっているかが、いちばん早く分かります
直近3回分の議事録 誰が何を言っているか、空気が読み取れます
決定事項ログ 「なぜそうなったか」を追います。前提が書いてあれば、判断の背景が見えます
契約書・見積 約束してしまっている範囲を確認します
2日目:前任者に、資料に書かれていないことを聞く
ここがいちばん重要です。資料を読めば分かることは聞かず、資料に書けないことだけを聞きます。
「いま、いちばん揉めているのは誰と何ですか。経緯も教えてください」
「口頭で決まっていて、資料に残っていないことはありますか」
「心配していることを3つ挙げてください」
とくに3つ目は必ず聞きます。前任者が「なんとなく気になっている」ことは、たいてい数か月後に本当の問題になります。
3日目:人に会う
決裁者、業務側の窓口、ベンダーのPM。主要な相手には、できれば前任者に同席してもらって挨拶します。「今後は私が窓口になります」と顔を合わせて伝えるだけで、その後の連絡が通りやすくなります。
同時に、それぞれに「いま困っていることはありますか」と聞きます。交代直後は、相手も本音を言いやすいタイミングです。
■ 渡す側:資料を作る前にやること
渡す側も、引き継ぎ資料の作成から始めると失敗します。先にやるべきことがあります。
形式知にする
課題管理表を最新化する。放置している項目を消さないことが大事です
口頭で決めたまま書いていないことを、決定事項ログに書き起こす
未確定のまま流している論点を、はっきり「未確定」と書いて残す
見栖えを気にして、都合の悪い項目を整理してしまうことがあります。しかし、後任が困るのは、まさにその項目です。
暗黙知を言葉にする
資料に書きにくいけれど、最も効く情報です。
誰が何に敏感か。どの言い方が地雷になるか
過去に一度もめた件と、どう決着したか
「この部署は事前に話を通さないと進まない」といった進め方の勘所
これは文書に残しにくいので、口頭で伝える時間を必ず確保します。1時間でも構いません。
関係をつなぐ
主要な相手に、同席して後任を紹介する
交代の日付と連絡先の変更を、関係者全員に通知する
交代後2週間は、質問に答えられる状態にしておく
■ 交代を関係者に伝えるとき
PMの交代は、発注元にとって不安な出来事です。「大丈夫なのか」と思われます。伝え方に気をつけます。
交代の事実と日付を、事前に伝える(事後報告にしない)
引き継ぎの進め方を説明する(「2週間は前任者も同席します」)
後任が最初の定例で、現状の理解を自分の言葉で話す
最後の点が効きます。後任が状況を正しく把握していることが伝われば、不安はかなり減ります。
■ 引き継ぎで抜けやすい3つ
口約束 資料に残っていない合意は、後任には見えません。「言った・言わない」の火種になります
人間関係の事情 資料には書きにくいが、進め方に最も影響します
まだ問題になっていない懸念 前任者の直感は、たいてい当たります
■ まとめ
引き継ぎの質は、資料の厚さでは決まりません。言葉になっていないことを、どれだけ言葉にできたかで決まります。
受け取る側は「心配なことを3つ」と聞く。渡す側は、都合の悪いことほど先に伝える。この2つを守るだけで、交代後のつまずきは大きく減ります。