プロジェクトの目的を「1枚」にまとめる
プロジェクトが始まるとき、いちばん最初にやるべきことは何でしょうか。スケジュールを引くことでも、体制図を作ることでもありません。「このプロジェクトは何のためにやるのか」を1枚にまとめて、関係者全員に同じものを見てもらうことです。
PMBOKでは「プロジェクト憲章(プロジェクト・チャーター)」と呼ばれる文書にあたります。ただ、形式ばった文書を作る必要はありません。A4で1枚、8つの項目が埋まっていれば十分です。

■ なぜ1枚にまとめるのか
プロジェクトが混乱する原因の多くは、技術的な難しさではなく、関係者が別々のことを期待していることにあります。
業務部門は「入力の手間が減る」と思っている
経営層は「人を減らせる」と思っている
情報システム部門は「古いサーバを入れ替えられる」と思っている
それぞれが自分の期待を口に出さないまま進むと、終盤で「思っていたものと違う」という話になります。1枚にまとめて配るのは、ズレを最初に表に出すためです。
■ 8つの項目を、順番に埋める
① 背景 ―― なぜ今やるのか
いま何に困っているのかを、事実で書きます。「業務効率化のため」では足りません。「繁忙期に締め処理が翌日までずれ込み、出荷が1日遅れている」のように、具体的な状態を書きます。
② 目的 ―― 何を実現したいか
システムを作ることは目的ではありません。そのシステムで業務がどう変わるかが目的です。「受注から出荷指示までを当日中に完了できる状態にする」と書けば、何のための開発かが伝わります。
③ 成功の判断基準 ―― 終わったと言える条件
ここが抜けているプロジェクトは、いつまでも終わりません。数字で測れる形にします。「締め処理が19時までに完了する」「入力ミスによる再処理が月5件以下」のように書きます。
④ スコープ ―― やること
対象となる業務・機能・部門を列挙します。この時点では粗くてかまいません。後で詳細化します。
⑤ スコープ外 ―― やらないこと
8項目のうち、実務でいちばん効くのがここです。「やらないこと」を最初に書いておくと、後から入ってくる依頼を判断できます。「請求・会計連携は今回対象外」と書いてあれば、途中でその話が出たときに「これは別プロジェクトですね」と言えます。書いていなければ、断る根拠がありません。
⑥ 体制と決裁 ―― 誰が決めるか
役職名ではなく、個人名で書きます。特に「最終的に承認するのは誰か」と「業務側の窓口は誰か」の2つは必須です。ここが曖昧なまま進むと、判断待ちで必ず止まります。
⑦ 主要マイルストーン ―― いつ何が終わるか
詳細な工程表はまだ要りません。「要件確定」「テスト開始」「稼働」など、3〜5個の節目だけを置きます。
⑧ 前提と制約 ―― 崩れたら見直す条件
計画は必ず何かを前提にしています。「業務側のレビュー要員は週8時間まで」「11月の稼働日は変更できない」。これを書いておくと、前提が崩れたときに計画を見直す根拠になります。前提が書かれていない計画は、遅れたときにPMの管理不足の話にされてしまいます。
■ 1枚を「配って終わり」にしない
作った1枚は、キックオフ会議で読み上げて、その場で合意をとります。黙って配るだけでは読まれません。とくに③成功の判断基準と⑤スコープ外は、声に出して確認します。
キックオフで全員に見せ、異論がないか確認する
決裁者の承認をもらい、日付を入れて確定版とする
全員がいつでも見られる場所に置く
前提が崩れたときに更新し、更新履歴を残す
■ 途中から参加したときも使える
すでに走っているプロジェクトを引き継いだときにも、この1枚は有効です。既存の資料から8項目を埋めてみて、埋まらない項目があれば、それが今のプロジェクトの弱点です。
とくに「成功の判断基準」と「スコープ外」が空欄のまま進んでいるプロジェクトは、終盤で揉める可能性が高いと考えてよいでしょう。埋めに行くところから始めます。
■ まとめ
立ち上げ期にPMがやるべき最大の仕事は、関係者の頭の中をそろえることです。詳細な計画は後から作れますが、目的がそろっていないプロジェクトは、どれだけ精密な工程表を引いても成功しません。
次に新しいプロジェクトを任されたら、まずこの8項目を書いてみてください。書けない項目が見つかったら、それが最初に確認すべきことです。